■市民集会・脱原発2022in信州

市民集会・脱原発2022in信州実行委員会が主催する「市民集会・脱原発2022in信州」が11月19日(土)、長野県教育会館ホール(長野市)で開催されました。

今年は「誰にも言えず、苦しんできた~福島甲状腺がん患者の現実~」というテーマで、特定非営利活動法人〈OurPlanet-TV〉の白石草代表が講演をされました。県内の脱原発運動にかかわる市民を中心に、Zoom参加・会場参加あわせて約40人が参加しました。

OurPlanet-TVの取り組みについて説明する白石草さん

会場の様子

採択された集会アピール

■311子ども甲状腺がん裁判はじまる

今年1月27日、これまで固く口を閉ざしていた原発事故当時の幼稚園生から高校生だった甲状腺がんの当事者、17歳から27歳の男女6人(現在は7人)が原発事故による放射線被曝によって甲状腺がんを発症したとして、東京電力に6億1600万円の損害賠償をもとめる訴訟を提起しました。白石さんがかかわってきた若い当事者も原告として参加しています。現在、勇気をもって立ち上がった原告を支援するための輪が広がってきています。

311子ども甲状腺がん裁判の弁護団と支援者

 

「誰にも言えず10年を過ごした」〜原告6人の声

裁判に臨む若い原告たちの声をOurPlanet-TVが報じている

 

■甲状腺がん裁判に立ちあがった若い原告たち

白石さんは、2013年からの3回にわたるチェルノブイリ取材を重ねるなかで、原発事故による健康影響について調べるためには、小児甲状腺がんの全容を知ることが欠かせないと感じたそうです。今回の講演では、はじめに福島県内で多発している子どもの甲状腺がんが、専門家たちにどのように扱われてきたか、その問題点と現在の状況について解説いただきました。後半では、小児甲状腺がんの問題を追うなかで出会った患者とその家族とのかかわりのなかから見えてきたもの、福島県立医大でのアイソトープ治療の過酷さ、若い当事者たちの苦悩、甲状腺がん裁判に臨む原告たちの声を伝えていただきました。

福島県立医大で甲状腺がん手術を執刀してきた鈴木眞一教授は「過剰診断」を否定する

※アイソトープ治療(RI)治療:甲状腺がヨウ素を取りこむ性質を利用し、甲状腺がん細胞が肺などの遠隔組織に転移した場合や、甲状腺全摘出後に、再発を防ぐ目的で「放射性ヨウ素」を内服してがん組織を破壊する治療法

 

■若い原告たちの声「将来が考えられない」

 

「死んだ方が楽かもしれない」

6時間半に及ぶ手術のあと、朦朧とした意識のなかでそんな思いがよぎった。

― 25歳・男性・福島県浜通り

恋愛や結婚は「自分とは関係ないもの」

手術を受けてから「普通」に生活する将来が考えられない。

― 17歳・女性・福島県浜通り

憧れはバリバリ働くキャリアウーマン。

手術後体調がすぐれず、希望して入った会社も2年で退職。

― 26歳・女性・福島県中通り

会場配布資料『原発事故後、福島県では「甲状腺がん」になり人生を変えざるをえなかった子どもたちがいるのです。』(通販生活2022年夏号掲載)より

 

 

【OurPlanet-TV】「子ども甲状腺がん裁判」 始まる~20代女性陳述「大学行きたかった」

「子ども甲状腺がん裁判」 始まる~20代女性陳述「大学行きたかった」

 

■10年間、孤立してきた甲状腺がん患者と家族

「甲状腺がんが増えている」という報道には苦情やバッシングが殺到する社会状況、復興一色の福島県のなかで、誰かに相談することも助けを求めることもできずに孤立していた患者とその家族。小さな手がかりから白石さんは甲状腺がん患者家族と出会い、かかわりを深めていきました。当初は、その深い絶望と孤独感、封じ込められてきた言葉に接するたびに、眠れない日々がつづいたそうです。白石さんは、診療に不安を抱く母親からの要望で、福島県立医大への通院に同伴するなど、若い当事者のすぐそばで彼ら・彼女らの苦悩に寄り添いながら取材・支援をつづけています。若い年齢でがんと診断されることは本人や家族の精神的・肉体的な苦痛、治療費など経済面を含めた日常生活への影響など当事者以外には想像できない大変さがあります。大学入学や就労などの人生の節目で希望が叶わず我慢を強いられること、また結婚・妊娠・出産などへの不安、そもそも恋愛にすら億劫になってしまっている当事者たちの気持ちを伝えていただきました。

結婚、治療費、学業、就職、出産などさまざまな心配がある

甲状腺がん発症の原因を患者たちは知りたいと思っている

親しい友人、親戚にさえ話せないでいる患者もいる

甲状腺がんの発症は若い患者たちの人生に大きく影響する

甲状腺がんによってさまざまな我慢を強いられる若い患者たち

 

■3・11甲状腺がん子ども基金が実施したアンケート「甲状腺がん当事者の声 2022」

「3・11甲状腺がん子ども基金」は、2011年の東京電力福島第一原発事故以降に甲状腺がんと診断された子どもとそのご家族を多方面で支えるために2016年に設立された特定非営利活動法人。

【アンケートから】

・現在の体調には問題はないが、年齢的に結婚や出産を考えるようになり、がんになって薬を飲み続けている私でも、健康に赤ちゃんを産めるのか心配になり、将来を考えると不安。(26歳・女性)

・手術をした後からずっとヨウ素制限を続けており、ワカメや昆布などヨウ素が高いものは食べられない。ずっと続くのかと不安。薬を飲めばよいのだが、一生続けなければならないかと思うと、なかなか決断ができない。(25歳・男性)

・転職直後のタイミングで福島に帰れず、経過観察のための県立医大への通院ができなかった。それから2年ほど受診していないため、今の状態が気になってはいる。(27歳・女性)

・夜勤勤務が体の負担になってきたため、転職を考えている。(25歳・女性)

・子ども医療費受給資格がなくなったあと、一生内服しなければいけない薬代、診察、検査代がかかり、大人になってからの本人の負担が大きいのではと心配している。(16歳・男性)

・現在、奨学金を借りて大学へ通学しているので、将来、身体的に健康に働いて返済できるのか不安。(18歳・男性)

・昨年夏に結婚。心配なことがあるとすれば、今後も病気とつきあっていかなければならないことです。(28歳・女性)

・大学3年生。このまま何もなく、普通に元気に生活していければいいと願っています。(20歳・女性)

 

「手のひらサポート」アンケート-甲状腺がん当事者の声 2022

https://www.311kikin.org/wp-311kikin/asset/images/pdf/questionnaire2022.pdf

白石さんも調査に協力したアンケート(リンク先からダウンロード可)

 

■大手メディアで報道されない子ども甲状腺がん裁判

講演の終盤、白石さんがインタビューした原告の子どもたちの音声が流され、「2人以上の方に今日の話を伝えてください」というスライドが映されました。NHKなど大手メディアで甲状腺がん裁判のニュースが報道されない問題に触れて、今日の講演に参加していただいた一人一人が少しでも伝えていってほしいと求め、最後に裁判の原告の子どもたちへの支援を呼びかけました。会場では、裁判を支援するカンパが呼びかけられ、参加者から約26,000円が集まり、青山実行委員長から白石さんにカンパが手渡されました。

講演の最後に映された白石さんからのお願い

若い当事者の声が会場に流された

青山実行委員長から白石さんへ裁判へのカンパが手渡された

■参加者アンケートから

・日本は福島を切り捨て、若者を切り捨てた。福島のリアルを日本政府は見せないようにしている。その中で、将来のある若者が必死に生きている。なんとか希望を持たせてあげたい。自分たちの子どもや孫を見ているようだ。OurPlanet-TVはこのまま独自路線をつづけてほしい。協力したい。

・言葉にならないです。でも眼を背けることはできません。甲状腺がんの情報が少なく実態が見えにくいですが、現状がよくわかりました。原告の皆さんは私の子どもと同世代で、ひとごとではありません。しっかりこの裁判を見つめていきます。皆さんはひとりではありません。一緒にがんばろう。

・現実を知ってちょっと唖然としました。一人でも多くの国民に知ってもらいたいです。

・福島原発事故の結果に苦しんでいる人の存在を事実上隠ぺいされている現状に怒りを感じます。

・甲状腺がんが原発事故のせいだと認められていないことに驚きました。認めないように歪めていた調査委員会の長が国会議員になったことに怒りさえ覚えました。

・白石さんのお話たいへんわかりやすかったです。子どもたちへの影響は極力くいとめ止めなければならないのに、見えない形にしようとする大きな力が動いていると感じました。これからも地道な取材をつづけてください。

 

【各団体リンク】

311甲状腺がん子どもネットワーク

https://www.311support.net/

 

3・11甲状腺がん子ども基金

https://www.311kikin.org/

 

OurPlanet-TV

https://www.ourplanet-tv.org/

 

【講師プロフィール】

白石草(しらいし・はじめ)

ビデオ・ジャーナリスト

早稲田大学卒業後、テレビ局勤務などを経て、2001年に非営利のインターネット放送局「OurPlanet-TV」を設立(現在、代表理事)。マスメディアでは扱いにくいテーマを中心に番組を制作配信する一方、映像ワークショップを展開し、メディアの担い手作りに取り組む。一橋大学大学院地球社会研究科客員准教授。
3.11以降の原発報道などを評価され、2012年「放送ウーマン賞」「JCJ日本ジャーナリスト会議賞」「やよりジャーナリズム賞奨励賞」、2014年「科学ジャーナリスト大賞」を受賞。
著書:『ルポ チェルノブイリ 28年目の子どもたち~ウクライナの取り組みに学ぶ』(岩波ブックレット) 、『メディアをつくる 「小さな声」を伝えるために』(岩波ブックレット)、『ビデオカメラでいこう』(七つ森書館)