21世紀のキーワード―平和・人権・環境

長野県平和・人権・環境労働組合会議

杉尾秀哉・参議院議員と県労組会議が意見交換

政策要望書と推薦決定通知書を杉尾秀哉氏に手渡す

県労組会議は3月21日、長野市内で役員、単産・地区労組会議の代表18人が参議院議員の杉尾秀哉氏と意見交換しました。コロナ禍でもあり、会場参加とオンライン参加併用で開きました。

県労組会議はすでに1月の幹事会で、今年7月に実施される参議院議員選挙長野県選挙区に立候補予定の杉尾秀哉氏の推薦を決定しています。そのうえで、杉尾秀哉氏に平和や民主主義に関わる事項や各労働組合が抱える政策課題についてまとめた「政策要望書」(別掲)を提出し、意見交換を行う方針を決めていました。

意見交換会では、冒頭、松澤佳子議長が「労働組合が行う選挙活動、政治闘争に対する規制や攻撃が強まるなか、昨年の総選挙では、なかなか先頭に立って頑張ることができなかった点は反省している。7月の参議院選挙は重要。自民党に勝利を許すと国政選挙が3年間ない『黄金の3年間』となり、憲法9条改憲や戦争ができる国にますますなっていく。労働者の要望をまとめた政策要望書を杉尾さんに手渡し、意見交換するなかで共にたたかう決意を固めたい」とあいさつ。

続いて、杉尾秀哉氏が2016年に参議院議員となって以来、長野県内のさまざまな現場を歩いてきた経過を振り返り、「働く仲間、生活者、納税者の視点を大切にする政治をめざし、次の機会が与えられれば、さらに粉骨砕身、頑張りたい」などと決意を表明。県労組会議が提出した政策要望書についても見解を述べました(杉尾氏の発言要旨は別掲)

次に、意見交換に入り、自治労、私鉄、長野地区労組会議から公共サービスや地域公共交通などについて要望が出されました。

意見交換の後、松澤議長が「推薦決定通知書」を杉尾秀哉氏に手渡し、オンライン参加者も含めてみんなで記念撮影をして終了しました。


県労組会議の杉尾秀哉氏あて政策要望書

 第26回参議院選挙に向け、長野県平和・人権・労働組合会議は、下記の通りの政策要望を提出します。貴殿におかれては、私たちの政策要望を尊重していただき、当選後の国会活動に反映していただけるように要請いたします。

1.立憲主義に基づき、憲法9条の改悪に反対し、基本的人権の尊重、平和主義、国民主権を掲げる日本国憲法の原則を徹底して守ります。

2.核兵器禁止条約を批准し、脱原発と再生可能エネルギーへの転換を積極的に進めます。

3.沖縄県の米軍辺野古基地建設に反対し、日米地位協定の改定を求めます。

4.労働基本権を擁護し、労働者全体の賃金引き上げと労働者保護ルールの堅持、官民の非正規雇用の待遇改善を図り、正規雇用化をめざします。

5.男女の賃金格差、雇用格差をなくし、女性が安心して働き続けられる権利確立に取り組みます。また、LGBTsなどすべての差別の解消に取り組みます。

6.真の地方自治を実現するための財政を確立し、人員確保を進めます。病院、保健所、保育所、水道など市民の健康と生命にかかわる公共部門の充実をはかります。

7.コロナ対策については、最重要政策と位置付け、中小零細企業への支援を拡充し、雇用保障、労働条件の維持・向上に取り組みます。

8.規制緩和とコロナ禍の直撃を受けている地域公共交通の維持、活性化対策を強化します。

9.国有林は「国民の共有財産」であることを堅持し、地球温暖化防止の観点からも十分な予算を投入します。

10.食料自給率の向上や食の安全を確保し、地域における農林水産業を再建します。

11.保育、学校教育にかかる総ての費用の無償化を進め、子どもたちの学ぶ権利を等しく保障します。

12.法人税の累進税率を導入、所得税の最高税率を引き上げ、金融所得への総合課税化など大企業に応分の負担を求め、所得の再分配政策を強化します。


働く仲間、生活者、納税者の視点を大切にする政治をめざす

杉尾秀哉・参議院議員の発言要旨

■生活者の視点で現場の声を国政に届けてきた5年半

2016年7月の参議院選挙で、それまで長野県は2議席が1議席になった。全国に先駆けて市民と野党の統一候補として多くのみなさんの支持で当選できた。「よそ者」「落下傘」と言われるなかで、みなさんの支持が唯一の頼りだった。働く仲間、生活者、納税者の視点を大切にする政治をめざし、無我夢中に走ってきた5年半だった。現場の声を聞いて国政に反映してきた。地域の課題、公共交通や農業、林業の問題など長野県の課題も丁寧に拾い上げてきたつもりだが、まだまだ道半ば。次の機会が与えられれば、さらに粉骨砕身、頑張りたい。

■岸田首相の「聞く力」は国民ではなく自民党内に向いている

この5年半、安倍さん、菅さん、岸田さんと歴代3人の総理大臣と対峙してきた。岸田政権になって少しソフトなイメージになったが、安倍、菅時代の自民一強政治は基本的には変わっていない。

岸田首相は一言でいうと「中身がない」。「新しい資本主義」とか言っているがまったく中身がない。会議体をつくって中身はみなさんで考えてという態度だ。本当にこの人がリーダーでいいのか。

岸田首相が強いのは、政権を維持するためなら何でもすること。「聞く力」は国民や野党に向いていなくて、自民党内の安倍さんや麻生さん、菅さんなど派閥のリーダーに向いている。危ないなと感じる。

■大政翼賛的な政治にさせないために参議院選挙が分岐点

コロナやウクライナの事態に便乗した議論が永田町でかなり大きくなり始めている。

その一つが専守防衛や非核三原則など、憲法や平和の根幹にかかわる問題。自民党の中では「敵基地攻撃能力」の議論が出ている。相手が打つ前にミサイル基地をたたくのは「先制攻撃」に間違いない。実際には事前にたたくのは難しいので、軍拡競争をエスカレートさせるだけだ。

非核三原則の見直し、「核共有論」も実際にはアメリカは共有を認めないだろう。ウクライナは核兵器を持っていなくって、ロシアは持っている。日本もウクライナのように攻め込まれないようにするためアメリカの核兵器を日本にも配備しなければならないという安倍さんの主張は、きわめて危ない議論だ。自民党幹部が賛同して議論を始める、これに岸田首相はブレーキをかけていない。

さらに非核三原則は「昭和の遺物」と主張する維新の会などもきわめて危険だ。

 憲法9条の改定、緊急事態条項の創設なども憲法調査会も衆議院では、毎週開かれる状況となっている。

 石油などのエネルギーが高騰するなか、原発再稼働の議論も出ている。

 参議院選挙の結果によってはきわめて危ない状況になる。民主・リベラル勢力が後退すれば、自民党にフリーハンドを与えることとなる。しかも、2025年まで国政選挙がないと予想され、3年間で自民党は自由にやってくる危険性が高い。野党の状況を見てもまさに大政翼賛的な政治になってしまう危険性がある。

 日本にとって大きな分岐点となる参議院選挙。県内をくまなく歩き訴えていきたい。

信州市民連合と3野党が「共同のテーブル」開く

総選挙の総括議論と参院選への方向性について意見交換

県内の市民団体でつくる「信州市民連合」は1月22日、長野市生涯学習センターで県内の3野党代表とともに「共同のテーブル」を開き、「市民と野党の統一候補」で戦った昨年10月の総選挙の総括と、今年7月に予定される参議院選挙に向けた取り組みの方向性について意見交換しました。

信州市民連合からは、5選挙区の市民連合の代表者が会場とオンラインで25人が出席、野党は、立憲民主党県連から杉尾秀哉・代表代行(参議院議員)、下条みつ・幹事長(衆議院議員)など4人が参加、日本共産党県委員会からは鮎沢聡・委員長など2人が、社会民主党県連合からは中川博司・代表(県議会議員)が参加しました。

意見交換では政党側から「総選挙では、政党の訴え方が弱かった。参院選では、今の自民党政治はだめだと思ってもらう保守層にも食い込める政策が必要だ。野党になればよくなるという選択肢を示すことが大切だ」(立憲民主・杉尾秀哉氏)、「長野県では新政信州も加わる形で独自の判断でやってきた。参院選に向けて地方で合意したことは実施したい。ただ、中央に対しても丁寧に対応する」(立憲民主・下条みつ氏)、「総選挙は市民連合のとともに気持ちよく戦えた。本格的な共闘の体制で戦ったことは歴史的意義があり、第一歩を踏み出した。これを権力側が恐れた。政策内容の訴え方などには課題が残った」(共産・鮎沢聡氏)、「市民と野党の共闘こそが、国民の生活や権利のためになるという点を強調した取り組みが必要」(社民・中川博司氏)などの意見が出されました。

信州市民連合からは、「市民と野党の統一候補として継続を。参院選では『長野方式』を深化させるべき」、「政策が共闘の基本。市民連合と野党の政策を詰めていく必要」、「地方で合意する体制をつくって、中央に認めてもらう方向で政党の中で確認してほしい」、「参院選でも市民と野党の共闘で戦う方向性の確認を。政策については、参院選では何を訴えるのか、総選挙の政策は反対運動のスローガンだと批判された。ふんわりと幅広い人々に共感を呼ぶ政策を」などの意見が出ました。

会議ではまとめとして、①参院選に向けて信州市民連合と野党との間で何らかの形で政策に関する協定・確認が必要であるという認識で一致したこと、②政策については信州市民連合で案をつくり、政党側と協議して詰めていくことなどについて確認しました。

コロナ禍を乗り越え、新たな団結と連帯で、地域労働運動・平和運動を未来につなごう

第41回全国地区労交流会を長野市で開く

長野県労組会議と12地区労組会議・単産でつくる実行委員会は、「コロナ禍を乗り越え、新たな団結と連帯で、地域労働運動・平和運動を未来につなごう」をスローガンに11月13日、長野市のホテル・メルパルク長野で第41回全国地区労交流会を開きました。コロナ禍のなかで開いた全国集会でしたが、全国・県内とも参加を制限し代表者のみが参加する集会としました、また、インターネット・Zoomでの配信も行いました。集会には、全国・県内から63人の参加者が集まり、Zoomでの参加者は約20人でした。各地の運動の経験交流や松代大本営地下壕の見学などを行い、成功裏に終わることができました。

記念講演は、阿智村にある満蒙開拓平和記念館館長の寺沢秀文氏。寺沢氏は、全国で一番多くの団員を送り出した長野県の歴史を述べ、「長野県民が被害を受けた事実と同時に、中国に対する加害の側面もあったことを忘れてはならない」と強調しました。

各地区労や団体からの報告者は以下の通りです。

1)沖縄の米軍基地問題  桃原 功(宜野湾市議会議員)、大城孝之(中部地区労事務局長)

2)福島原発事故・汚染水問題  福島県・小名浜地区労 松本耕三(議長代行)

3)関西地区生コン支部弾圧事件  全日本建設運輸連帯労働組合 小谷野 毅(書記長)

4)JAL争議団闘争報告 鈴木圭子(団員)

5)コロナ禍での労働相談 神戸地区労 宇野克巳(議長)

6)長崎バスユニオンの闘い 長崎地区労 加世田和志(書記長)

7)コロナ禍の地域公共交通の現状 私鉄長野県連 若林茂(書記長)

8)労働相談・組織化 松本地区労組会議 平谷哲治(事務局長)

21世紀の労働運動研究会「ハラスメントの防止に向けて」(小川 英郎弁護士講演)

ハラスメントの防止に向けて

県労組会議と各ブロックの地区労組会議が主催して開いている「21世紀の労働運動研究会」は12月4日、上田市・丸子文化会館セレスホールで今期4回目の講座を開きました。「ハラスメントの防止に向けて」というテーマで、ウェール法律事務所(東京)の小川英郎弁護士に講演いただきました。Zoom視聴と会場参加あわせて、約30人の方が参加されました。

講演する小川英郎弁護士

小川弁護士には、パワハラに関する法制度の動き、ハラスメント事案の救済の法的構造について、最近の裁判例をあげながら解説いただきました。またコロナ禍のなかで起きている感染者へのハラスメントや、感染防止についての業務指示におけるハラスメントについても触れていただきました。講演終了後には、小川弁護士も参加して分散交流会を実施しました。

相談しやすい雰囲気、信頼関係をつくることが大事

分散交流会では、参加者から、「振り返ればパワハラをされていたのかもしれない」、「熱血指導とパワハラは紙一重」、「セクハラ被害者のパート女性は加害者の顔も見たくないという状態だった」、「労働局も強制力がなく難しい」、「気を使うことでギスギスした雰囲気にもなっていると感じる」などの発言があった。

本人以外の第三者が通知できる制度が必要

最後に参加者の声を受けて小川弁護士から「相談しやすい雰囲気、信頼関係をつくることが大事。本人以外の第三者が通知できる制度が必要。相互監視になる。ちゃんと処分できる組織の体制をつくること」というアドバイスをいただきました。

2022年も〈第16期〉の労働運動研究会を企画していきます

「〈第15期〉21世紀の労働運動研究会」も、今期最終講座となり、最後に閉校式を行い全4回の講座すべてに参加した参加者4人に松澤佳子長野県労組会議議長から特典(図書カード)をお渡ししました。2022年も「〈第16期〉21世紀の労働運動研究会」を企画していきます。ぜひご参加ください。

閉校式

【講演概要】

小川英郎弁護士・講演レジュメ(PDF)

※以下の概要でご紹介した裁判例以外にもレジュメに裁判例の記載があります。ぜひお読みください。

第1 パワハラに関する法制度の動き

1 改正労働施策総合推進法成立

198回通常国会で、職場のパワーハラスメント(パワハラ)に対する事業主の措置義務を定めた改正労働施策総合推進法が成立。
① 優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
② 業務の適正な範囲を超えて行われること
③ 身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること
⇒詳細は指針に委ねられた(令和2年6月1日施行)
⇒セクハラ、妊娠・出産・育児に関するハラスメント対策も同時に改定

「業務による心理的負荷評価表」

2 定義について

⑴ 「職場」
「当該労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、当該労働者が業務を遂行する場所については、『職場』に含まれる。」
「業務を遂行する場所」には、出張先、取引先、会社の懇親会等が含まれる。また勤務時間外であっても業務遂行との関連性が認められれば、「職場」に当たりうる。ハラスメント防止の観点からすれば、①明確化と②安全サイドに立った解釈が求められる。

⑵ 「優越的な関係を背景とした」
「行為者に対して、抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるもの。」
職位、職種・雇用形態の違い、能力・資格・実績・成績などの個人的能力、容姿や性格、性別、性的指向・性自認など、あらゆる要因により事実上生じた人間関係を広く含む概念と解して対応することが求められる。「抵抗又は拒絶できない」ほどの関係ではない、と安易に解釈することは危険。

⑶ 「業務上必要かつ相当な範囲を超えて」について
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動であるかの判断にあたって、「個別の事案における労働者の行動が問題となる場合は、その内容・程度とそれに対する指導の態様等の相対的な関係が重要な要素となる」
労働者の行動の問題性が高ければ、指導・叱責が直ちにパワハラに該当しなくなるということではない。多くの裁判例で労働者側の問題点を指摘しつつも、違法性が認められている点に注意。また「業務上必要かつ相当な範囲」の判断にあたっては、附帯決議が指摘するように、「労働者の主観」にも配慮する必要がある。

3 該当する例・該当しない例

⑴ 「該当する例」として以下のものも含まれる
① 身体的な攻撃 ※レッドカード
・書類を投げつける
・相手の身体の近くに物をなげつける
・叱責に当たり、足下にあるゴミ箱を蹴飛ばす
・机を叩く、椅子を蹴る
・殴るふりをする
・扇風機の風を当てる ※たばこの嫌いな上司が喫煙者の部下に「臭いから」と

② 精神的な攻撃
③ 人間関係からの切り離し
④ 過大な要求
⑤ 過小な要求
⑥ 個の侵害

心理的負荷強度「Ⅲ」は最も強いストレスで労災レベル

「森友学園問題で自殺した財務省職員の方は公務災害になるだろうと見ています」(小川弁護士)

配置転換のあとにパワハラといくつも重なるケースが多い

上司等からのパワハラ・同僚等からの暴行・いじめ・嫌がらせなどは「Ⅲ」レベル

⑵ 「該当しない例」 ※あまり鵜呑みにしないほうがいい
例示されているものの、労働者に帰責性がある場合にはハラスメントにならないわけではない。個別具体的に考える必要がある。
「これはハラスメントになりませんよね」と聞かれても、安易に指針を引いて「大丈夫」と言わないこと。あくまでケースバイケース。また、「人間関係からの切り離し」に該当しない例として、「懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせること」が挙げられているが、①研修の必要性、②研修の態様、③研修の内容等によって総合的に判断される。いうまでもなく、退職強要や嫌がらせ目的で追い出し部屋に入れたり、一人隔離させることは当然許されない。

 

第2 ハラスメント事案の救済の法的構造

1 権利の侵害とは

・パワハラにかかわる権利の類型
① 個人としての権利(人格権、身体の自由、良好な職場環境を享受する権利)
② 労働組合の活動を嫌悪する場合(団結権)

2 違法なセクハラ・パワハラに対する救済類型

① 対企業(損害賠償)
② 対加害者(損害賠償)
③ 対行政(労働者災害補償保険法の申請)
※企業ではなく上司に対してのみ訴える人が多いが、企業も被告にして問題をあぶり出していくべき。加害者の個人にはお金もない。

3 民事損害賠償請求訴訟の構造

① 違法性の根拠は?(民法715条、709条、415条)
ア 不法行為責任(民法709条)
「故意または過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」
イ 使用者責任(民法715条本文)
「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」
ウ 債務不履行責任(民法415条本文)
「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。」
② 過失とは
注意義務に違反したこと(安全配慮義務違反)
予見可能性と結果回避可能性
③ 損害の内容
原則として交通事故損害賠償基準が援用されている
積極損害:治療関係費、付添看護費、雑費、通院交通費、葬儀費
消極損害:休業損害 後遺症逸失利益 死亡逸失利益 慰謝料
④ 休業損害
給与所得者の場合、受傷による現実の収入減
有給休暇使用、昇格・昇給遅延、賞与減額も含まれる
⑤ 後遺症逸失利益
⑥ 死亡逸失利益の算定

4 労災としての扱い

(1) 労災保険法の構造
心理的負荷評価表の改定
ひどいいじめ、嫌がらせがⅢに。

「業務による心理的負荷評価表」

(2) ハラスメントの認定の手順
客観的な証拠関係
職場の構成と人間関係
調査に対する企業側の対応
(3) 業務外決定に対する対応
審査請求⇒再審査請求⇒行政取消訴訟へ
最後は裁判所による司法判断に委ねられる
国の敗訴率がもっとも高い分野

 

第3 最近の裁判例の分析と傾向

1 最新裁判検討

【加野青果事件(名古屋高判平29.11.30労経速2336号3頁)】
【事実】
(当事者)
・被災者花子は、平成3年生まれの女性(父母は原告X1,原告X2)
平成21年3月高等学校卒業後、4月にY社に正社員として入社。総務部配置。
高校ではマンガ研究部所属。ゲームやアニメが趣味。
おとなしい性格。注意を受けると反論せず、黙り込む。
精神障害等の受診歴なし。
・Y社は、従業員60名の青果物の卸売業。
・Y2 大卒 平成8年4月にY社入社  営業事務担当
・Y3 大卒 平成13年4月にY社入社 経理事務担当
(被災者の就業状況)
平成21年4月 本社ビル3階で経理事務従事(果物の買掛金関係)
請求伝票の発行、支払、記帳、パソコン入力等
・入力ミスが多かったが、よりミスの多い他の同僚のおかげで目立たず。
・Y3は当初、丁寧に指導。
平成23年9月
・ミスの多い同僚が子会社に出向。
・Y3⇒花子に対して、「てめえ」「あんた、同じミスばかりして」と男っぽい口調で叱りつけるようになる。
・食欲がなくなり、外出を嫌がり、家で寝ていることが増える。ツイート数も減る。
平成23年10月~
・両親のX1、X2がY社に電話 花子がいじめに遭っていると申告。
・担当取締役Bが「ちゃんと見ている」と回答。
・B⇒Y3 「注意する際にはもう少し優しい口調で」と指導
・Y3⇒花子 「親に出てきてもらうくらいなら、社会人としての自覚を持て」
後述配置転換後も呼び出してY2とともに叱責
平成24年4月以降
・花子 2階で果物の営業事務に配置転換(派遣社員の後任)
⇒Y2が花子を直接指導するようになる。
・業務内容は、電子データの注文内容を入力するというもの
・前任の派遣社員は、入力作業が複雑で時間に追われるため、ストレスで辞めている。
・従前業務はY3が引き継ぐことになり、マニュアル作成を命じる。
「自分の言葉で書いたマニュアルを作成し直して」
・派遣社員から引継ぎを受けるも、完全にはできるようならず、派遣社員は、Y2に支援を要請。
・Y3から内線電話で怒鳴られて泣いてしまうことあり(ミスは冤罪)
・一部顧客についてのシステム変更により夕方の残業が増える。
⇒同年3月22日から4月20日の時間外労働は67時間で最長
⇒その後、49時間、58時間で推移。
・花子のミスが増加するも、Y2も多忙で席も3階に移動。
・ Y2の同僚から花子の業務量が多いので調整必要との指摘。
・ Y2 週1回程度、花子を呼び出し「何度言ったら分かるの?」と叱責
注意内容を付箋に貼ってパソコンに貼るよう指導。
・ 身なりに構わなくなる(髪も梳かさず、春に冬物のブーツを履く)
平成24年6月20日
・ 公休日にY2から携帯に電話。納品書の記載漏れを指摘される。
・ 翌21日早朝 10階から飛び降り自殺(遺書なし)
(ツイッター投稿)
H23.8 「転職してえ」
H23.11「忙しいなんてレベルじゃないぞこれ。死ぬ。死んでしまう。時間足りない。」
H24.2「現状が辛すぎてなんかもう消えたい」
H24.3「新しい仕事で目が回る。」
H24.5「マジで辞めんぞこの会社」
H24.6.10「今回は絶望的ですかね。もう会えないかもですね。」
H24.6.19「仕事大量に残ってるから朝早くでてこなかん」
【判断】
① Y3の不法行為
(厳しい口調の叱責について)
・8年先輩社員である
・経理事務の指導担当
⇒業務上の指導を行うべき立場にある。
・上司や同僚からの指摘あった
⇒パワハラ該当可能性についての認識があった
・「以上のとおり、被告Y3の花子に対する叱責の態様及び叱責の際のY3の心理状態に加え、花子が高等学校卒業直後の平成21年4月に被告会社に入社したこと及び平成24年4月以降、花子が引き継いで間もない新しい業務に従事していたことに鑑みると、平成23年秋頃以降、被告Y3が継続的かつ頻回に、叱責等を行ったことは、花子に対し、一方的に威圧感や恐怖心を与えるものであったといえるから、社会通念上許容される業務上の指導の範囲を超えて、花子に精神的苦痛を与えるものであると認められる。」
② Y2の不法行為
(深夜の架電と出社指示)
⇒社会的相当性を欠くとは言えない。
(配置転換後の指導)
・女子従業員の担当事務全般の把握能力と経験あり。
・役員から支援を指示されていた
・もともとミスが多かった花子に対して適宜支援するべき職責があった
⇒支援をすべき不法行為法上の注意義務
・付箋のメモをパソコンに貼るよう指示はしていたが
・Y3とともに叱責継続、頻繁な呼び出し、同じ叱責の繰り返し、長時間に及ぶ
・時間外労働が増加
・同僚からの指摘あり
⇒業務代行等の支援措置せず
⇒上司にも報告相談せず
⇒叱責行為は業務の適正範囲を超える。
③ 被告会社の責任
民法715条の使用者責任肯定
民法709条、415条の責任(安全配慮義務)について
電通事件最高裁判決判旨を引用
・取締役BはY3の口調について認識するも一度注意したのみ、その後確認せず
・負担の重い配置転換を決定
「被告会社は、花子に対し、花子が新しい業務を疲労や心理的負荷なく遂行できるよう花子の業務の事情を把握し、指導体制を整え、場合によっては、花子の業務内容や業務分配の見直しや増員を実施すべき義務を負う。」
⇒Y2を3階に配置するなど、義務を怠った。
・配置転換自体は企業の合理的な人事施策の範囲内
・時間外が増えているとはいえ、労働者の心身の健康の喪失につながるようなもの ではない。
・叱責行為についてこれを制止ないし改善するよう指導・注意する義務がある。
⇒これを放置。
・業務支援が必要な状況にあったのに放置、業務内容や業務分配の見直し等を怠った。会社自身の不法行為及び債務不履行
④  因果関係
遅くとも平成24年6月中旬ころには、うつ病を発症していたと認められる(原審は否定)。※Twitterの投稿内容から裁判所が判断
叱責行為⇒心理的負荷「中」、配置転換⇒「中」、総合して⇒「強」
⑤ 予見可能性
会社については「使用者は、平成24年当時、仕事の負担が急に増えたり、職場でサポートが得られないといった事由から、労働者がうつ病になったり、自殺に至る場合もあり得ることを認識できたのであるから、うつ病発症の原因となる事実ないし状況を認識し、あるいは容易に認識することができた場合には、労働者が業務上の原因で自殺することを予見することが可能であったというべきである。そして、被控訴人Y3及び被控訴人Y2による違法な注意・叱責とこれについて被控訴人会社が適切な対応を取らなかったこと及び花子の業務内容や業務分配の見直しをすべき義務があったのにこれをしなかったということを、被控訴人会社は認識し、あるいは容易に認識できるものであった」。
Y2,Y3については「それのみでうつ病を発症させる程度に過重であったとは評価できない。」
⑥ 損害
被告会社について
逸失利益 3550万円
月額賃金15万×12月+時間外+賞与=年間283万
67歳までの46年、生活費控除30%
慰謝料  2000万円
葬祭料   150万円
合計    5700万(各2850円)
損害の填補 労災保険からの支給(X1が受領)
固有の慰謝料 100万円
弁護士費用
合計X1 3190円 X2 2384円
Y2 慰謝料50万
Y3 慰謝料100万

 

第4 コロナ禍とハラスメント

(1) 感染者を不利益に扱うことが許されるか
感染自体は、非違行為にあたらない。
家族の感染を理由とする不利益取扱い(検査の強要)
家族の職業を理由とする不利益取扱い(医療従事者・高齢者施設)
職場感染防止のための措置は認められるが、ハラスメントは許されない。
(例)感染を理由とする解雇、雇止め
感染を理由とする配置転換、治癒後も継続する自宅待機
感染を理由とする処分
⇒ただし、会社の指示に反して、危険な行動を取ったことに対する処分をどう考えるか。

(2) 感染防止についての業務指示とハラスメント
使用者が感染防止措置を取ることは義務でもある。
安全配慮義務
一方で、私生活上の行動にどこまで使用者が介入できるかは別問題。
ケースバイケースの判断となる
在宅勤務指示をめぐるトラブル(費用負担、プライバシー)

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国鉄(日本国有鉄道)が1987年4月、分割・民営化されJRが発足して35年を迎えようとしています。国鉄からJRに移行するにあたって、国鉄職員がJRに「採用」されましたが、国労(国鉄労働組合)に所属している多くの組合員が「不採用」となりました。国労は、当時のナショナルセンター・総評(日本労働組合総評議会)の運動をけん引する労働組合であり、国民の財産である国鉄を分割・民営化する政府の方針に反対していました。政府と国鉄当局が一体となり、この国労組織をつぶすためにJRから多くの国労組合員が排除されました。

JRに採用されず「国鉄清算事業団」に籍を置いた国労組合員は、1990年3月末で1047人が事業団からも解雇されました。解雇された国労組合員は北海道・九州を中心に「闘争団」を組織して、国鉄当局・JR、政府の組合つぶしに抗議し、不当労働行為の責任を追及、不当解雇の撤回とJR採用を求めて闘い続けました。争議は25年間もの長い間続き、最終的に解決金が支払われて終結しました。1千名を超える労働者が四半世紀にわたって闘い抜いた国鉄闘争は、日本の労働運動の歴史に刻み込まれました。

長野県労組会議は、北海道の紋別・美幌闘争団の国労組合員を支援してきましたが、争議の解決後も、県労組会議は、国鉄闘争の意義を継承するため、紋別・美幌闘争団の元団員でつくる「国鉄闘争を語り継ぐ紋別・美幌の会」と交流を続けています。

「紋別・美幌の会」は毎年、オホーツク海でとれた冷凍ホタテ貝柱を斡旋しています。「紋別・美幌の会」の元団員は元気に生活を送っていますが、北海道のオホーツク地方は、安定した職もなく、生活のための収入確保は困難が伴います。ホタテの収益の一部は、「紋別・美幌の会」の活動と生活応援のために活用しています。

冷凍ホタテ貝柱の販売価格は、1㎏で4200円、5袋以上まとまると送料無料で職場や家庭にお届けします。購入を希望される方は、県労組会議事務局までお問い合わせください。

「女性労働者は、女性として、労働者として、二重の 鉄鎖に縛られている」

21世紀の労働運動研究会 - 女性労働者の権利について学ぶ

県労組会議と各ブロックの地区労組会議が主催して開いている「21世紀の労働運動研究会」は11月6日、松本市・Mウィングで今期3回目の講座を開きました。

講演のテーマは、女性労働者の権利と非正規公務員問題について。県労組会議議長の松澤佳子さんが30年にもなる自らの労働運動の経験を交えながら講演しました。

松澤さんはまず、女性労働の現状について報告。一般労働者の間で、女性労働者の賃金は、男性労働者と比べて75%程度にとどまること、非正規労働者の割合も女性が圧倒的に高いことなどについて説明しました。戦後、資本側と労働側との間で、女性労働者の「保護か平等か」の点について論争があり、資本・経営者側は、平等を主張するなら労働基準法の女子保護規定(深夜業、残業規制など)をはずせと主張し、労働側は、女子保護規定の撤廃に反対し、努力義務ではない男女平等法を求めてきたと紹介しました。

■女性解放運動家・山川菊栄に学ぶ

また、松澤さんは、戦前から戦後にかけて女性解放運動に身を投じた山川菊栄を紹介。1918年の「母性保護論争」で、歌人の与謝野晶子は「女性の経済的自立」を求め、思想家の平塚らいてうは「母性保護」が重要だと主張したこと、山川菊栄は「どちらも必要」とし、「両方が解決しても、根本的な解決にならない。『資本対労働』の問題の解決こそ必要」だと訴えたことを紹介しました。また、松澤さんは、1925年に山川菊栄が起草した日本労働組合評議会「婦人部テーゼ」で、「女性は、社会的・経済的に弱者であり、資本家の攻撃は、まず女性にむけられる。女性の奴隷的美徳ー従順と無知を利用して、賃金を引き下げ、男性の賃金を引き下げ、全体の生活水準を引き下げている。女性労働者は、女性として、労働者として、二重の鉄鎖に縛られている。女性労働者を組織しなければ、資本の側にとりこまれて、労働組合を弱体化させる」と、山川菊栄が労働組合「婦人部」の組織化を強調した歴史を解説しました。

■「団結なくして権利なし」-宮里邦雄・弁護士の言葉を実践しよう

講演の最後に松澤さんは、55年間にわたり労働弁護士一筋で活躍されている宮里邦雄・弁護士(元日本労働弁護団会長)の言葉を引用。「労働者の権利は孤立したものではなく、仲間によって守る社会的権利。団結がなければ権利は守れない」と強調しました。

コロナ禍を乗り越え労働者の新たな団結と連帯を

県労組会議が定期総会開き、コロナ後の運動の再構築を確認

長野県平和・人権・環境労働組合会議(県労組会議)は10月22日、長野市のホテルメルパルク長野で第26回定期総会を開き、コロナ禍で生活と労働に直撃を受けた医療・公衆衛生の労働者や地域公共交通に携わる労働者を支援していくこと、感染防止対策のため中止や延期になったさまざまな運動を、コロナ後には改めて多くの仲間が参加できる運動にしていくこと、10月30日に投開票となる総選挙で市民と野党の統一候補を支援することなどを確認しました。

主催者を代表して松澤佳子議長は、「1年半以上にもおよぶコロナ禍は、私鉄、国労、全自交など公共交通を担う仲間や、病院や自治体の現場で働く仲間に大きな犠牲を強いている。一方、自公政権はアベノマスク、学校の一斉休校など非科学的で『やってる感』を漂わすだけの政策に終始してきた。『新しい資本主義』を掲げた岸田内閣もすでに掲げた政策は後退し、アベ・スガ政権を引き継ぐものであることは明白。中国や朝鮮民主主義人民共和国の脅威を盾に、『敵基地攻撃能力』の保有に前のめりになっているが、武力では何も解決しないばかりか危険であることはアフガニスタンやミャンマーの情勢からも明らかだ。アウシュヴィッツ強制収容所から生還した精神学者のフランクルは、著書『夜と霧』の中で最後まで助け合ったり夕陽を美しいと感じる人間性を失わなかった人が生き残れたことを書いている。厳しい状況下だからこそ、職場や地域で連帯し、労働者が団結することが必要だ」などとあいさつしました。

来賓は、連合長野から根橋美津人・会長、立憲民主党県連から篠原孝・代表(衆議院議員)、社会民主党県連合から中川博司・代表(県議会議員)、労働事業団体を代表して県労福協から中山千弘・理事長があいさつしました。

質疑討論では3人が発言しました。「コロナ禍で地域公共交通は大変な状況。県労組会議から各単組への激励金に感謝」(私鉄県連)「県労組会議青年女性連絡会で2年ぶりに反核平和の火リレーを実施した。12地区中7地区で実際にランナーが走った。若い人が平和を考える機会になっている。運動を止めずにやっていきたい」(自治労)、「アスベスト被害で仲間を亡くした。JR車両所で今でもアスベストが古い車両や建材に使用されている。引き続き取り組みを職場で進めたい」(国労長野)などの発言がありました。

総会では、岸田自公政権と対峙し、総選挙に勝利する特別決議と、「組合員はもちろんですが、組織されていない労働者・国民にも共感が広がる労働運動が今こそ必要とされています。コロナ後を見据えて、地域社会において労働者の新たな団結と連帯を再構築しましょう」とする総会宣言を採択しました。

☞ ここをクリック 岸田自公政権と対峙し、総選挙に勝ち抜く特別決議

☞ ここをクリック 定期総会総会宣言

〈第15期〉21世紀の労働運動研究会 第2回 渡辺寛人氏(NPO法人POSSE事務局長)講演「パンデミックと労働運動」

講演「パンデミックと労働運動」渡辺寛人氏

「〈第15期〉21世紀の労働運動研究会」が、10月9日(土)、いなっせ(伊那市)で開かれ、第2回講座として「パンデミックと労働運動 POSSE・総合サポートユニオンの取り組みから」というテーマで渡辺寛人氏(NPO法人POSSE事務局長)にリモートで講演いただきました。Zoom視聴と会場参加あわせて、約30人の方が参加されました。

渡辺寛人氏には事務局長を務めるPOSSEでの若者の労働・貧困問題への取り組みを中心に、コロナ禍に急増した若者・女性・外国人からの相談や、その背景にある日本社会の構造的問題についてお話いただき、パンデミックのなかでの労働運動について伺いました。講演後には、渡辺氏も参加して分散交流会を実施しました。

リモートで講演する渡辺寛人氏

【講演概要】

NPO法人POSSEとは?

POSSEは、2006年に若者の労働・貧困問題に取り組むNPOとして発足。英語で「仲間」のこと。ブラック企業と闘い、労働環境を改善するため、働く仲間が力を合わせるという意味を込めた。メンバーは20代を中心とした若者で、労働・生活相談、労働法教育、調査研究、雑誌発行、社会発信などに取り組んでいる。

 

2014年からは、「総合サポートユニオン」を立ち上げ労働組合運動を展開。2019年にはPOSSE外国人労働サポートセンターを立ち上げ、外国人労働者の支援も開始。

 

NPO法人POSSE

https://www.npoposse.jp/

総合サポートユニオン

https://sougou-u.jp/

POSSE外国人労働サポートセンター

https://foreignworkersupport.wixsite.com/mysite

 

パンデミックの影響 女性・学生・外国人

コロナ禍において相談が急増している。コロナ以前は2500件/年でしたが、2020年度は労働相談が3675件、生活相談が379件、外国人相談が342件。

女性からの相談が61%。コロナの影響が人と接するサービス業中心の職種に広がっていること。また学校の休校などにより、子育てが女性に押し付けられていることがわかる。

非正規雇用者からの相談が多く、全体の68%(計872件)。雇用の調整弁としての非正規。そもそも雇調金の対象にされず、テレワークや休業補償においても差別されている。

 

一番多い相談は休業に関するもの

もともと低賃金水準で労基法26条の休業手当(平均賃金の6割)では手取りは10万円前後になり生活苦に陥る。まったく休業補償がないという相談も多数あった。3月ごろから新型コロナの影響が色濃くなりはじめ、二カ月連続で収入がない、という人も出てきた。休業補償の不払いの相談も多く、IT関係の方からは、人事に「アルバイトだから出せない」「アルバイトには支払う義務がない」と言われ休業補償が支払われないケース。また飲食関係では、緊急事態宣言後シフトが減って、週2日勤務になり3時間で帰らされた日もあった。試食販売の方からは、コロナで試食の仕事が一切なくなったが会社は「日々雇用のため、継続して雇っている認識はない」と主張し、休業補償は支払われなかったケースもあった。

休業手当が全く支払われなかった事例や、平均賃金の6割しか支払われなかった事例が多数あり、制度の活用を求めても拒否されてしまう。

 

新型コロナとブラックバイト

コロナ禍でのアルバイト相談

 

20代前半女性(アルバイト・居酒屋)

「仕送りはもらっておらず、生活費として月13万~15万稼いでいた。それが3~4万にまで減少。奨学金を借りて学費を払っている。緊急事態宣言以前から店が休業になった。休業補償がでるかわからない。

 

19歳女性(アルバイト・塾講師)

「3~4月、生徒が来れないという理由で、シフトが完全になくなった。その間の補償に関する連絡は一切なかった。母子家庭で生活に余裕がない」

 

新型コロナウイルスの影響でアルバイトや親の収入が減って学費を払えない大学生らが増えています。学生アルバイトからは、休業補償が支払われていないという相談が多数寄せられました。約2割の大学生が退学を検討しています(学生団体FREEの調査)。学生アルバイトは「基幹的な労働力」として組み込まれながら、「雇用の調整弁」として都合よく扱われてしまっています。

 

補償なき休業と解雇が貧困を拡大

補償なき休業と解雇が貧困を拡大

 

外国人労働者の生活困窮の深刻化

外国人労働者からも計524件の相談が寄せられました。

 

20代のスリランカ人留学生

「都内のファミリーレストランチェーンで、通常時は週25時間働き、月12万円ほど稼いでいました。緊急事態宣言の発令後ファミレス事態が休業になりシフトがゼロになりました」「休業補償について店長に聞いたところ、本部に問い合わせるという返答でしたが、その後音沙汰なし。結局、労働基準法で定められている休業手当の支払いがなく、学費や家賃などの支払いが困難になりました」

 

なぜ矛盾が非正規(女性、学生、外国人が多い)に集中したのか?

日本型雇用システムの変容と貧困の拡大の背景には、終身雇用や年功賃金が得られない労働者の増加(非正規雇用、ブラック企業)や、女性の異常な低賃金構造の維持があります。その結果、生活が困難になり、ケア需要の増大によって貧困が拡大しています。

日本型雇用システムの変容と貧困の拡大

 

賃金の低下と共働き世帯の増加

 

大学進学率の増加と学歴による格差の拡大

背景には、①国公立大学の学費の増加、②親世代の収入の減少、③不十分な奨学金が考えられる。大学に通うのに必要な年間費用の平均188万円、私立大学4年生・自宅外だと平均250万円もの費用がかかるためアルバイトをしなければならない学生が増加している。

 

非正規雇用の基幹化(ブラックバイトの構図)

正社員を非正規雇用で代替したことでアルバイトが職場の中で重要な責任を担うようになって、アルバイトがいないと回らない職場になっている。また徹底的な低コストで最低賃金すれすれの給料でありながら辞めることもできない。

 

周辺化されてきた女性労働

女性は、「男性稼ぎ主モデル」のもとで、家庭内で無償の家事労働を担わされ、労働市場においては家計補助的な労働力として活用されてきた。女性差別は、正規/非正規の雇用形態差別に形式を変えて継続。「男性稼ぎ主モデル」が崩壊し、産業構造が転換している現在、女性労働の位置づけをが大きく変化しているが、周辺化され続けている。

 

「人出不足」を埋めるための外国人労働者

・深刻な人手不足(地方では農業や漁業など、都市部ではコンビニなどのサービス業)の穴埋めとして外国人が活用されている。そもそも「人出不足」自体が、その仕事に従事しても再生産できる賃金を得ていないことに起因。その結果、日本人相手にも「求人詐欺」で騙して雇い入れる手法が横行。ブラック企業は固定残業代を用いて給料をかさ増しする。

・外国人に対してはさらに離職を防ぐために物理的な暴力を行使している。パスポートや通帳の会社管理、労働条件の改善を要求した労働者の「強制帰国」といった手段を用いる。

・技能実習生は、そもそも法的に転職可能性が制限されている。外国人技能実習生は約40万人。多くが「エッセンシャル」な産業のサプライチェーンの末端に組み込まれてきた。ファストファッションや外食チェーン、建設産業など。

 

エッセンシャルな仕事。しかし低賃金

この20年間で日本社会は、製造業を中心としら産業構造から、ケアやサービス経済を軸とした産業構造に転換してきた。

しかしサービス産業では生産性を上げることに限界があり、利益を上げるためには人件費を極限まで切り縮める必要がある。企業は労働条件を低いままに、非正規雇用を基幹労働力として組み込んできた。結果的にそこに充当されてきたのが、女性、学生、外国人だった。

コロナ禍はこの矛盾を顕在化させた。

 

POSSE/総合サポートユニオンの取り組み

さまざまなアクション

《一部紹介》

自販機産業ユニオンの気候変動ストライキ

  ストライキの要求事項

1 業界で協力して無駄な自販機の削減とCO2排出を削減してください

2 8時間労働で生活できる賃金を設定してください

3 自販機業界と自販機産業ユニオンでの、気候危機に関する議論の場を設けてください

2021年6月25日にストライキを実施

 

・自販機産業では、各社が利益のために街中に自販機を設置し、大量の自販機を労働者の長時間労働によって機能。長時間労働、過労死の温床に。

・環境負荷の視点から自販機産業を考えると、街中にあふれている24時間稼働の自販機それ自体の電力消費、さらに、多くの自販機を巡回する際のトラックでの移動や賞味期限切れの飲料などの食品ロスの問題も。

・産業構造そのものが環境と労働者への高い負荷を生み出している。24時間稼働し、大量の食品廃棄を出し続けるコンビニ業界など、多くの産業にも共通。

 

ジェネレーションコロナからジェネレーションレフトへ

ジェネレーションレフトとは?

資本主義を否定し、社会主義を支持する世代の台頭。ミレニアル世代やZ世代が中心。アメリカ民主党で「社会主義者」を自称するバーニー・サンダーズやイギリス労働党のジェレミー・子―ビンを支持していたのは若者だった。

背景:不安定な労働市場、教育ローンなどの債務漬け、家賃やネット等々の使用量などレント負担の重さ、気候危機による将来への不安。にもかかわらず経済成長を掲げ、富裕層を優遇する政治。

 

これまでの経済成長を軸とした資本主義の物語が失効した世代

 

ジェネレーションレフトの条件

2008年 出来事としてのリーマンショック

2011年 オキュパイウォールストリートなど、一連の抗議行動

 

2008年の受動的出来事と2011年の政治的出来事が補完し、新自由主義の物語を失効させ、新たな社会を求める能動的出来事として捉えなおす契機に。日本では、若い世代に魅力的なビジョンもなければ組織化も行われていない。したがって2008年以降、停滞・保守化が進行。

 

ジェネレーション・コロナ

・コロナ世代は「気の毒」か?

・2020年以降、ボランティア応募が飛躍的に増大。250名以上が参加し、そのうち女性が8割。「ダブル」など海外ルーツを持つ人やクィアなど、マイノリティが多い。

・感染対策に伴う大学の規律の低下、海外留学の中断、断念。相対的に自由な時間の出現。社会的関心の高まり。

・入管問題、外国人技能実習生、難民問題、女性の貧困への関心が高い。

 

なぜ女性やマイノリティが多い?

・コロナ危機=ケアの危機。日本社会では、再生産の領域は女性や外国人労働者に外部化されてきた。家庭および労働市場において、外部に周辺化されているがゆえに、外国人労働者への共感や想像力が働きやすい。

・日本社会での閉塞感が強い。女性は男性的な競争社会に入るか、ケアの担い手として男性に従属することが求められる。そのどちらも魅力的ではない。

・日本で求められる生き方の拒絶の裏返しとして海外志向が強かったが、コロナ禍で国内の外国人労働者の問題へと関心が向いた。

 

〝運動とは、何らかの形で社会から取り残されてきた人々を受け入れ、こうした人々を社会の片隅から中央へと動かす。運動が目指す変化とは、今まで目立たなかった人々の存在に光を照らし、社会や経済や政府から全く重要でないとみなされている人々を可視化することだ。″アリシア・カーザ『世界を動かす変革の力』

 

Z世代をめぐる攻防、組織化の重要性

労働運動のパラダイムチェンジが必要

・サービス経済化が進むなかで、女性の活動とされてきたものが産業の中心に移動しつつある。にもかかわらず、労働運動は男性中心的なものとしてイメージされている。

・コロナ禍は、日本社会の矛盾を可視化させた。労働組合がこの状況に対応していくために最も重要なのは、Z世代の女性やマイノリティが中心となれるような組織化を行い、組織のあり方を変えていくこと。

・若い世代に魅力的なビジョンの提示や組織化をつうじて、ジェネレーションコロナからジェネレーションレフトへ!

書籍紹介『ジェネレーションレフト』(キア・ミルバーン)『POSSE vol.48 特集 ジェネレーション・レフトの衝撃』

『POSSE vol.48 特集 ジェネレーション・レフトの衝撃』

POSSE vol.48 特集 ジェネレーション・レフトの衝撃|雑誌『POSSE』ホームページ|NPO法人POSSE (npoposse.jp)

信州市民連合と3野党が総選挙最終盤に「共同アピール」を発表

市民と野党の統一候補の全選挙区での勝利をめざして

憲法改悪に反対し、野党共闘を推進する市民団体「信州市民連合」は、総選挙において、1区から5区まで「市民と野党の統一候補」を推薦し勝利をめざして3野党と共に戦っています。

選挙戦も残すところあと3日、最終盤となりました。信州市民連合と立憲民主党、日本共産党、社会民主党の3党は、市民と野党の共闘で何としても全選挙区で勝利しようと訴える「共同アピール」を発表しました。

各選挙区で市民と野党の共闘を担っている関係者や、支持してもらっている有権者、県民のみなさんにあてたメッセージです。

☞ ここをクリック 信州市民連合と3野党の「共同アピール」

 1区 しのはら孝    2区 下条みつ   3区 神津たけし

 4区 ながせ由希子   5区 そが逸郎

 

県労組会議が総選挙に向け野党5人の予定候補を推薦

公助、共生、暮らし優先の政治をめざそう

県労組会議は、10月31日投票で行われる衆議院総選挙で、市民と野党の統一候補の5人を推薦しました。コロナ対策に行き詰った菅義偉首相が政権を投げ出し、岸田文雄政権が発足しました。安倍晋三元首相、菅義偉前首相と9年間続いた「アベ・スガ政治」は、国民・労働者の暮らしと仕事に、大きな“負の遺産”を残しました。岸田首相がアベ・スガ政治を清算しない限り、表紙を変えただけの政権に終わります。

総選挙では、市民・労働者と野党の共闘で、自助よりも公助、自己責任より共生、大企業や富裕層の利益よりも国民・労働者の暮らしを優先する政治へ転換を図りましょう。

なお、県労組会議および関係する地区労組会議は、総選挙の推薦候補5人に「政策要望書」を提出して、当選後には、労働者の労働や生活、平和や民主主義に関する課題について国政の場に反映するように要請しました。予定候補は全員、「要望された政策課題を受け止め、国政に反映させたい」などと答えました。

☞ ここをクリック 県労組会議ニュース・総選挙版