長野県アスベスト対策センターは、5月18日に県労働会館(長野市)で、第7回総会を開催しました。アスベストによる肺がんで夫を亡くされた県内在住のご遺族が、建材メーカーへ損害賠償を請求する集団訴訟に参加するための支援など、昨年度の取組みについての報告がされ、今年度の活動方針に沿って、引きつづき長野県民の命と健康を守る活動を推進していくことが確認されました。
国労家族会から県アスベスト対策センターに寄付金贈呈
国労家族会から県アスベスト対策センターに寄付金が贈呈されました。家族会メンバーでアスベスト被害者遺族でもある小林さんから連帯のご挨拶をいただきました。また「JR東日本大井工場アスベスト黒沼裁判」について、「じん肺・アスベスト被災者救済基金」の池田理恵氏から報告をいただきました。
中皮腫・じん肺・アスベストセンターの永倉氏が講演
総会終了後には、県アスベスト対策センターの連携団体である「NPO法人中皮腫・じん肺・アスベストセンター」の永倉冬史氏から「能登半島地震での災害ごみ処理とアスベスト対策/阪神・淡路大震災30年プロジェクト報告」というテーマで講演いただきました。あわせて長野市環境部生活環境課の梨本正彦氏から「能登半島地震災害における災害廃棄物処理事業の現状と課題」というテーマで報告いただきました。オンライン参加者を含めて50人が参加しました。石川県内の自治体議員(2人)の方も参加され飛び入りで報告もいただけ有意義な会となりました。
能登半島地震被災地の状況・アスベスト対策
石川県珠洲市へ支援に入った長野市担当者からの報告
石川県の能登半島地震の被災地では、多くの建造物やインフラに被害が発生しました。現地調査を行った永倉氏から、がれきの中にアスベスト含有建材の破片や鉄骨に吹き付け罪があることが紹介され、災害ごみの処理、アスベスト対策の現状と課題について共有いただきました。また珠洲市の支援に入った長野市役所の梨本氏から、現地の被災状況、支援にかかわる中で見えてきた災害廃棄物処理事業の課題、アスベスト対策について台風19号災害の経験と教訓をふまえながら報告をいただく貴重な機会となりました。梨本氏への質疑応答では、「台風19号災害の経験から、今回の支援に役だった点、活かされた点は?」という質問があり、「次になにが来るかがわかったこと。この時期には仮置場を開設しなくてはいけない、この時期には公費解体の相談が増えてくる、マスコミ対応など、先回りして助言ができることが一番大きかった」と返答され台風19号の経験が今回の支援活動に活かされていることも共有されました。
「阪神・淡路大震災30年プロジェクト」
アスベスト疾患発症増加への懸念
1995年に発生した阪神・淡路大震災から来年で30年を迎え、被災地で飛散したアスベスト(石綿)による健康被害が懸念されています。全国から集まったボランティア活動が注目されましたが、震源被災地でのアスベスト粉塵問題が注目された初めての災害でもありました。大震災から30年が経過し、潜伏期間が30~40年とされるアスベスト疾患の発症が、今後増加していくことが予想されています。
「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」では、大震災から30年となる2025年1月までの期間において、災害とアスベストに関する調査・研究を進め、今後の災害に活かすため、記録に残す活動に取り組んでいます。永倉氏からは「阪神・淡路大震災30年プロジェクト」の取り組みについても報告をいただき、発災直後の防護だけではなく、長期にわたってその影響をモニタリングしていく必要があり、市民の健康を守るためにもアスベストについての情報を周知していく活動の重要性が参加者に共有されました。
Ⅰ 講演概要 永倉冬史氏(中皮腫・じん肺・アスベストセンター)
能登半島地震での災害ごみ処理とアスベスト対策/阪神・淡路大震災30年プロジェクト報告
➀阪神・淡路大震災30年プロジェクト報告
オンラインで報告する永倉氏
■阪神・淡路大震災30年プロジェクト
・2025年は、阪神・淡路大震災から30年の節目の年。30年となる2025年1月までの期間において、災害とアスベストに関する調査・研究をすすめ、今後の災害に活かすために記録を残す活動を開始する。
・今年の防災の日(9月1日)、来年の1月にシンポジウムを開始する。
・災害被災地でのボランティア活動が注目される契機となり「ボランティア元年」と呼ばれるようになった。また震災被災地でのアスベスト粉塵問題がとりあげられた初めての災害でもあった。震災発災直後の倒壊した建造物から発生したアスベスト粉塵は、被災地全域に飛散したと考えられる。アスベスト疾患の発症までの潜伏期間は30~40年と言われ、今後増加していくことが懸念される。
・発災当時、被災地でボランティア活動など粉塵のなかで活動した心当たりのある方に、アスベスト情報を提供することを目的とした活動を実施する。
■阪神・淡路大震災30年PJ事業計画
飛散検証チーム
環境省を中心に一般環境の濃度測定値を発表しているが、その濃度測定地に疑義がある。当時のアスベスト粉塵濃度は、白石綿(クリソタイル)しか測定していない。それ以外のアスベスト繊維の濃度が測定されないままに一般環境の濃度が発表され、それほど危険はないという判断に繋がってしまったことは問題ではないか。当時の記録を集めて分析している。
災害とボランティアチーム
30年ばかり前のことであり難航している。当時ボランティアとして関わったひとたちの記録も残っておらず、高齢化も進行している。
アスベスト曝露チーム
連続公開講座の企画。当時のボランティアへの聞き取りを神戸大学の学生を中心にして取り組んでもらう。若い世代にもアスベスト問題を知ってもらうこともひとつの目的。
防災対策チーム
阪神・淡路大震災から始まった災害被災地でのアスベスト曝露の問題について、能登半島地震被災地の行政等への提言を具体的に練っていく活動。
記録チーム
アスベスト問題への取り組みの活動記録は重要。今後に活用していくためにも。被災地の神戸新聞、東日本大震災の被災地の新聞・河北新報などの記者に専門にアスベスト問題を追った記者たちがいる。彼らに災害被災地での報道の記録の作成をお願いしていく。
■連続公開講座を神戸大学で実施
「震災の経験を記録する——阪神・淡路大震災とアスベスト被害を聞き取り、語り継ぐために」
当時のニュース映像などを交えながら、アスベスト問題がどのように捉えられたか、これからどのようなことが必要かを考える。当時、さまざまなボランティア活動に関わった方にヒアリングに協力していただくことを目指している。
(上記のWEBサイトから転載)
連続公開講座「震災の経験を記録する——阪神・淡路大震災とアスベスト被害を聞き取り、語り継ぐために」
2025年1月に、阪神・淡路大震災から30年の節目をむかえます。1995年の震災やその復興の過程のなかで、たくさんの人々がアスベスト(石綿)の曝露にさらされました。しかし、膨大に広がったものと考えられるアスベスト被害の全貌はいまだに把握されず、しかも30年後の現在はまさに被害が発症するタイミングです。アスベスト被害は決して過去の出来事ではなく、いまも続いているのです。そのような問題意識のもと私たちは、連続公開講座を開催することにしました。第二回となる今回の講座では、アスベスト被害を経験した当事者の方々にお越しいただき、生の声に耳を傾けます。そして、震災によるアスベスト被害の現実を学び、当事者の声を記録し、私たち自身の声で社会へと発信していくことをめざします。
■「阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター」
阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター(WEBサイト)
https://www.dri.ne.jp/
■具体的な今後の取り組み
全国的なアンケートを実施していく。すでに石川県の被災地に防塵マスクを届ける活動を開始しているが、さたに備蓄用のマスクを送る活動のための寄付金も集めていく。連続講座「震災の経験を記録する」では、若い世代に震災アスベスト問題の本質を理解してもらえるような講座にしていきたい。
②能登半島地震での災害ごみ処理とアスベスト対策
■能登半島地震被災地の現地調査
5月6~8日に「ひょうご安全センター」3人、「東京労働安全衛生センター・リスクコミュニケーションプロジェクト」4人、計7人のメンバーで現地調査に入った。
■現地の状況
■防塵マスクを社協・ボランティアセンターに寄贈
輪島市の社協のボランティアセンターを訪問した。マスクを寄付し、「市民のためのアスベスト対策ガイド」やアスベストについて知るための漫画を届けた。漫画は東日本大震災の際に制作したもの。
◇市民のためのアスベストガイド(東京労働安全衛生センターサイトより)
アスベストのばく露を防止するためには被害を受けるおそれのある人々が対策に参加することが重要です。これは職場では「リスクアセスメント」と呼ばれており、世界中で行われていますが、日本の中小の解体の現場では未だ普及していません。アスベストの被害は職場を超えて周辺住民と建物を利用する人々に及びます。住民、建物利用者、建物所有者、工事業者、行政などの関係者が情報を共有し、対策に関与することをリスクコミュニケーションと呼びます。アスベストの対策では、このリスクコミュニケーションが効果的であり、重要とされています。私たちは全国各地で解体工事などでのアスベストをめぐるリスクコミュニケーションに関わってきました。このガイドは、アスベストとは何か、その用途と危険性について解説します。そしてその危険を避けるために働く人や建物利用者と住民が何をすればいいのかを示すために作成しました。皆さんの問題解決のために役立てば幸いです。
市民のためのアスベストガイド(PDFダウンロード)
https://tokyo-oshc.org/wp/wp-content/uploads/2021/08/asbestosguide_compressed.pdf
■被災地のアスベストの状況
大きく報道された倒壊したビル。二つの四角い煙突にアスベスト保温材が使われいる恐れがある。解体には注意が必要になってくる。
焼け野原になった朝市通り。いたるところに花が手向けられていた。
アスベスト吹き付け材が焼け跡に見受けられる。
アスベストが含有される西洋屋根瓦が粉々になって散乱していた。
アスベストを意味する「a」マークが見つかる。
アスベストの吹き付け材が疑われる焼け残った建物の鉄骨。
アスベスト含有の可能性が疑われるロックウール。焼け残った建物の多くに同様の箇所が見つかった。分析していく必要がある。
煙突の耐火材も確認する必要がある。対策が取られない状況で放置されている可能性がある。
ぽつぽつと穴が空いている板が見つかる。押出成形版は最期までアスベストが使用された建材。おそらくアスベストが含有されている。押出成形版がかなり広範囲に散乱していた。アスベスト対策が必要な状況。
橋には段差が発生し車がスムーズに出入りできない状況。同行した神戸のメンバーは「阪神淡路大震災の際に大規模な火災が発生した長田区を彷彿とさせる」と発言していた。
■石川県庁に調査で得られた情報を報告
この視察で得られた情報を翌日金沢市内の石川県庁を訪れ担当部署に報告したが、危険な現状がなかなか伝わっておらず、現状についての情報がよく理解されていないという印象を受けた。
環境省が建物のアスベストの分析依頼を出した。石川県が保有するアスベスト台帳(国交省が主導して災害前から準備するように自治体に働きかけ)をもとに、64棟の被災建物にアスベストの露出状況の調査を行った。そのうちの12棟で吹き付けアスベストの露出が確認され、今後の公費解体の際にアスベスト対策が必要とされる。しかし石川県全域で12棟という数字は、現在の状況が反映されているとは言えない。
全体的に石川県全体でアスベストに対する認識が立ち遅れている現状がある。今後、NPO、NGOなどからの提言が非常に重要になってくる。私たちも今後も被災地を訪れ、調査結果から提言を行いたい。また公費解体にかかわる事業者向けにアスベスト対策のレクチャー・講習も行っていく。
石膏ボードなどの分別を示す看板が設置されていた。まだ運び込まれる前だったのでがらんとしていた。特徴的だったのは、がれき置場の出入口のスタッフに「中を見せて下さい」と声をかけると簡単に入ることができた。他の被災地ではあまりなかったこと。それがいいのかわるいのかはいろいろあるが、行政の監視管理状況も十分には機能していないと感じられた。
今後もわれわれのできることをつづけていく。長野県アスベスト対策センターとも連携して取り組んでいきたい。
【質疑応答】
質問:生協関連で輪島市に派遣されていた方から、団体同士の連携がうまくいっていないという声をきいた。団体同士の繋がりが弱いという印象は持たれたか?
回答:短期間の調査のため全体像は見えていない。しかし神戸からボランティアに来ていた方にきいた話では「連携がわるい」、「情報が全然伝わってこない」という声があった。そのような状況は、他の被災地でもあったが、情報がなぜ均等に行き渡らないのかという問題がある。東日本大震災の際も、当初は行政が機能せず、ある病院の医師が宮城県庁に乗り込んで「これでは誰も助けられないぞ」と発破をかけて、その医師が中心になって連絡体制を構築したという話があった。全体像を理解して体制が組めるような人がいなかったのではないかという印象を持っている。環境省のホームぺージなどを見ると、どういう支援が行われた詳細に分析しているものがあがっている。分析している間に他のことができるのではというくらい分析している。能力のあるひとが現地に入っているだろうが、適材適所になっていたのか。
他県から被災した建物調査に入っているが、それらの情報が石川県にあがっていない、活かされていない、連携がとれていないという感じがあった。長野県の場合は、さまざまな情報を環境政策課、環境課などが取りまとめる能力があった。それを現場で反映して活用できるように情報処理することもできていた。ただ長野県の場合は石川県と異なり狭い範囲で被災地が完結していたが、石川県は被災エリアが広範囲に及び分散する自治体をまとめることができなかった。むしろボランティアの方が連携ができていた。自治体はうまくカップリングできず遅れてしまった印象を受ける。
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Ⅱ 報告概要 梨本正彦氏(長野市環境部生活環境課)
台風19号災害の経験と教訓を踏まえた、能登半島地震災害における災害廃棄物処理事業の現状と課題
【趣旨】令和6年能登半島地震災害において災害廃棄物処理支援員登録制度(人材バンク)として石川県珠洲市で活動した内容を報告するもの。アスベスト対策も含めて報告する。
・2023年5月5日にも石川県能登地方でマグニチュード6.5の地震が発生して、石川県の珠洲市で最大震度6強を観測した。倒壊などの被害を受けた建物があったが、元日の地震がさらに追い打ちをかけた。
・発災直後の現地入りの際は、市役所の別棟に雑魚寝できる部屋があり環境省の職員らと共に寝袋でやすんだ。歯磨きなどはミネラルウォーターを持って行って、朝口をゆすぐという状況だった。
・水道管や下水道管に被害が出て、市民の方も市役所に用を足しに来るが詰まって使えなくなった。その後、仮設トイレを市役所の外に設置した。しかしバキュームカーも道が悪くなかなか回収に来れない状況だった。午前中になると満杯になっている状況だった。
・食事も制限して、できるだけトイレの利用をしないように気を使った。当然風呂にも入れない。
・1月末~2月はじめの二度目の現地入りの頃には、トイレの設置もすすみ、避難所各所に設置されるようになり、活動しやすくなった。
・支援者も増えてきたので宿泊場所が少ない状況になっていたので、長野市の車のなかで休んだ。トイレは利用できたが水道が出ない状況がつづいていた。
・3月の現地入りの際の宿泊はキャンピングカー(北九州ナンバー)だった。30~40台ならんでいた。衛生環境が整ってきた。
・し尿の処理(バキュームカーでの回収・運搬等)に多大な経費
・支援に入った福井県は回収したゴミを福井県内まで運んで処理していた
・一度に施設が被災するとどうにもならないなと感じた。私たちが経験した台風19号災害とは比べ物にならないほどの大きな被害だと実感。
・珠洲市はアスベストが使用される以前の古い建物が多く残る街並み。
・今回の地震では、台風19号災害とおなじく特定非常災害に指定されたので、全壊家屋も半壊家屋も公費解体となり国の補助対象になった。
・写真は元旦の地震で崩れた寺院。かなり大きく立派な建物だったが崩れた。手を付けられずそのままになっていた。
・穴水町が非常に細い道がボトルネック。
・発災直後は、救急車が通行するたびに交通が止まった。
・長野市役所から珠洲市まで12時間かかった。石川県庁から珠洲市役所まで7時間かかった。
・困ったのは携帯の電波が使えず、ナビが使えなかったこと。能登里山街道が走れず、脇道を勘で走るしかなかった。
・1月末の仮置場の開設・運営方法についての会議 アスベスト含有しているとみなして対応することが決定
■被災地の被害の状況
・配管がズタズタになっていた。急ピッチで復旧作業をしている状況。
・能登の復興には、東日本大震災や台風19号災害よりも息の長い支援が必要と感じた。
・いちばんの繁華街のエリア。被災直後の頃は、一日一往復が給油車の限界だったので午前中にはガソリンスタンドは売切れの状態。
・いちばん大きな避難所になっていた。福井県庁が支援に入っており比較的衛生状態がよかったが、仮説トイレも当初は8基しかなかった。また夜間は真っ暗になるため、用を足すのは明るいうちに限られた。
・もっとも津波の被害が大きいエリア。マンホールの隆起が目立った。全部やり替えになる。粉塵が舞っていた。散水もできないのでマスクで防ぐしかなかった。
・焼却場は突貫工事で復旧できた。山を削った場所に建てたので問題なかったが、管理棟は盛り土の上に建てたので被害が大きかった。
【質疑応答】
質問:台風19号の経験は今回の支援に役だった点、活かされた点など教えてください。
回答:次になにが来るかがわかること。この時期には仮置場を開設しなくてはいけないとか、この時期には公費解体の相談が来るとか、マスコミ対応など、先回りして助言ができることが一番大きかった。仮置場の開設の話が1月末に出ている。市内全域が被災した状況のなかでは素早い対応だった。
【県アスベスト対策センター今後の予定】
6月22日(土)第11回アスベスト被害面談・電話相談会を開催
6月22日(土)に第11回アスベスト被害面談・電話相談会を開催します。過去の相談会で寄せられた相談から労災申請にも繋がっています。アスベストの健康被害を抱える方や不安を感じている方、アスベスト加工を業務とする事業者などからの相談をひろく受け付けます。
※相談料は無料/秘密厳守 ※面談相談を希望される方は事前にご連絡ください。
日時 2024年6月22日(土) 10:00~16:00
面談相談 松本市中央4ー7ー22 松本市勤労会館 1階 ユニオンサポートセンター(松本地区労組会議内)
電話相談 0263-39-0021 もしくは
0263-33-9513