災害時の廃棄物処理・アスベスト対策を考える
長野県アスベスト対策センターは、5月19日にJA長野ビルで、第6回総会後に「災害時の廃棄物処理・アスベスト対策を考える学習会」を開催しました。長野県内の自治体の廃棄物処理の担当者を中心に会場・Zoomを合わせて60人が参加しました。
今回の学習会は、昨年9月に開催したシンポジウム「令和元年長野市台風19号災害におけるアスベスト対策」で報告された長沼地区(千曲川の堤防が決壊)や長野市の取組みとその教訓について、県下の自治体間で広く共有することを目的として開催しました。長野県、長野市、松本市のほか多くの町村から担当者が参加されました(13自治体)。
学習会では、元長野市長沼地区住民自治協議会会長の西澤清文氏(報告Ⅰ)、長野市環境保全温暖化対策課(被災時)の桑原義敬氏と長野市環境部廃棄物対策課の中嶋隆夫氏(報告Ⅱ)、中皮種・じん肺・アスベストセンターの永倉冬史氏(報告Ⅲ)からそれぞれの取り組みや見えてきた課題について報告をいただきました。
長野県アスベスト対策センター鵜飼代表
【来賓挨拶】長野県環境部資源循環推進課 滝沢課長
【報告Ⅰ】堤防が決壊した長沼地区での災害ゴミ対策の教訓
元長野市長沼地区住民自治協議会会長 西澤清文氏
報告Ⅰで登壇した元長野市長沼地区住民自治協議会会長の西澤清文氏からは、「台風19号災害時の長沼地区での災害ゴミ対策の教訓について~その経緯と課題~」と題して、災害に備えて長沼地区で行ってきた取り組み(地区防災計画等)、発災初動対応期の長沼地区での実態(災害ごみ勝手仮置き場等)、Operation One Naganoの取組みや、災害ゴミ分別チラシへのアスベストの記載についてなど、災害現場でどういうことが起きていたか具体的にお話いただきました。そこから見えてきた災害廃棄物(災害ゴミ)への対応と教訓、課題について共有していただきました。
長沼地区の「勝手」仮置場の実態
地権者・管理者に了解をとったうえで確保された仮置場
アスベストの注意喚起の記載がなかった災害ゴミ分別チラシ
災害に備えて普段から準備をしておくことが重要
【報告Ⅱ】長野市のアスベスト対策・災害廃棄物処理の取組み
台風19号災害に対応した長野市担当者からの報告
報告Ⅱで登壇した長野市の桑原氏からは、①「大規模災害発生時(令和元年東日本台風災害)の石綿飛散防止の対策について」と題して、被災地での石綿防止対策として実施した緊急的な対応及び計画的な事業の手順とその内容(災害廃棄物仮置場等でのモニタリング調査、建設業及び解体工事事業者への注意喚起、ボランティア・被災者への情報提供、解体作業現場の立入調査の実施、不適正な事例紹介)について報告いただきました。
また長野市の中嶋氏から②「台風19号災害での災害廃棄物処理の取組について」と題して、災害廃棄物仮置場の選定、災害廃棄物仮置場の準備で注意したこと(高さ、危険物、動線、無関係な廃棄物の持込禁止)、被災世帯への周知、実際の運用のなかでのアスベストの分別状況、仮置場周辺で発生した渋滞や災害ゴミの発熱などさまざまな問題について報告いただきました。
そのなかで、長沼地区などで発生した自主仮置場の解消に向けて、内閣府・国交省・環境省・自衛隊・NGO・長野県・長野市による「自主仮置場の解消に向けた打ち合わせ会議」(11月26日までに延べ24回開催)が開催され、関係者が連携して赤沼公園・大町交差点に災害廃棄物を集積し、郊外の仮置場へ搬出するフローが構築され搬出が開始されたこと、「オペレーションONE NAGANO」と称して昼間は市民・ボランティア・行政職員等が廃棄物を赤沼公園に搬入し、夜間に自衛隊が赤沼公園から郊外へ搬出する活動が実施されたことなどを詳しく説明いただきました。
反省点として、鉄板(砕石)が用意できず、廃棄物の運搬に伴い周辺の道路が泥で汚れ、苦情が発生した仮置場があったことや、被災地以外での仮置場は廃棄物の保管が長引くと住民の苦情が発生する(付近住民の理解必要)ことなどを挙げられました。
今後もいつどこで発生するかわからない災害に備えて、長野市の経験を検証し、その教訓を今後に生かしていくことの重要性が伝わりました。
【報告Ⅲ】東日本大震災・熊本地震でのアスベスト対策
中皮種・じん肺・アスベストセンター 永倉冬史氏
報告Ⅲでは、「中皮種・じん肺・アスベストセンター」の永倉冬史氏から、「東日本大震災・熊本地震でのアスベスト対策」と題して支援活動の内容とその教訓について報告をいただきました。
被災地で撮影された写真から、がれきのなかにアスベスト含有建材の破片や鉄骨に吹き付け材があること、がれきを重機で搔き集める際に粉塵が発生することなどが示され、住民やボランティアがアスベストに曝露することを防ぐために、現地で行われた防じんマスクの装着のレクチャーや、解体現場を見守る住民へのマスク配布などの活動について報告いただきました。
また「中皮種・じん肺・アスベストセンター」の被災地でのアスベスト調査活動(マッピング、石綿濃度測定など)と被災地での報告活動(調査結果の報告)の取組みについても、東北や熊本での実際の活動事例を挙げながら解説いただきました。
東日本大震災沿岸部の被災地での活動の様子
震災等災害時のアスベストリスクの検証
災害時のボランティアの曝露が懸念されている
アスベストの危険性を住民に周知しておくことが重要
熊本地震でアスベスト汚染はあったのか
阪神大震災、東日本大震災での吹き付けアスベスト飛散の経験から、環境省が早い段階で対応について指示を出し、業界団体が熊本県、熊本市に協力して建物調査を実施でき、吹き付けアスベストのある建物19棟を特定し、飛散防止対策、除去工事を実施できたことなど熊本地震では過去の大地震の際にくらべ適切に対応できたことも多く学ぶべき点が多いことが指摘されました。
教訓として平時から吹き付けアスベストの有無を調査・把握しておくことの必要性、防災計画にアスベスト対策をきちんと入れること、行政では緊急時対応訓練、図上演習の実施の重要性が指摘されました。
アスベスト含有建材への対策が丁寧に実施されている
災害発生前から防塵マスクを備蓄しておくことが大切
災害が起きる前から備えることの重要性
石綿輸入量と中皮種死亡者数の推移(日英比較)
最後に、イギリスでのアスベスト輸入量とアスベスト被害のグラフから、今後、大量にアスベストを輸入・使用してきた日本でも中皮種などのアスベスト被害が顕在化していくことが予想されることが指摘されました。災害時だけでなく、アスベスト建材を使用した建造物の老朽化もすすみ解体工事が増えていくことから、新たな被害が生まれる可能性が高まっていくことが危惧されます。永倉氏は報告の最後に、子どもたちに負の遺産を残さないためにと訴え、今後の取り組みが重要になってくると強調しました。
日本でも被害の拡大が予想される
【学習会参加者アンケート紹介】
アンケートには、非常に参考になったと言う声や、アスベストを知らない若い世代がいることへの驚きなどの感想が寄せられました。
アスベストの危険性を知らない世代にどう伝えていくかなど新たな課題も見えてきた学習会になりました。
報告Ⅰ 感想
・各地区において防災計画を策定しているということを聞いて大変驚きました。自治会での動き、また市・県の動きの経過ごと示したフローも分かりやすく非常に参考になりました。
・災害発生時は、突然の事であるので、どうしても個人対応になってしまうと思う。自分の事で精一杯で、他人の事を心配している状況にない。台風19号の時は、私は、松代地区にボランティアに入ったが、青垣公園のゴミ捨て場に行ってもアスベストに関する情報が無かった。やはり、行政が災害時のマニュアルを作成する事が大切と感じた。
報告Ⅱ 感想
・水質汚濁事故の対応だけでなく、公費解体の立入り検査など、アスベスト対策に関してお聞きし勉強になった。仮置場の運営、また設置前の備えなど、事前にどこまで対策を行えるか考える機会になった。
報告Ⅲ 感想
・東日本大震災時のお話など、住民の方がアスベストにばく露する危険性が高まることを改めて感じた。アスベスト台帳など事前の備えの重要性を感じた。
・自治体の若手職員がアスベストのことを知らないのはおどろいた。周知は必要と感じた。今後の被害者の増加が心配だ。
アンケートに寄せられた声
長野県アスベスト対策センター第6回総会
午前には同会場で、長野県アスベスト対策センター第6回総会が開催されました。2022年度の活動経過報告、決算報告、2023年度の活動方針、予算などが確認されました。県アスベスト対策センターは、今後もアスベストの危険性を多くの方に知っていただき、災害時におけるアスベスト被害を防ぐために活動をすすめていきます。またアスベスト被害に苦しむ当事者とその家族の相談支援、裁判支援等を継続していきます。
【県アスベスト対策センター今後の予定】
7月2日(日曜日)に第10回アスベスト被害面談・電話相談会を開催します。過去の相談会で寄せられた相談から労災申請にも繋がっています。アスベストの健康被害を抱える方や不安を感じている方、アスベスト加工を業務とする事業者などからの相談をひろく受け付けます。
※相談料は無料/秘密厳守 ※面談相談を希望される方は事前にご連絡ください。
日時 2023年7月2日・日曜日 10:00~16:00
面談相談 長野県労働会館3階 第2小会議室/第3小会議室
電話相談 026-234-2116