21世紀のキーワード―平和・人権・環境

長野県平和・人権・環境労働組合会議

高崎市県立公園にある朝鮮人犠牲者追悼碑の設置許可の更新不許可問題

裁判報告と歴史修正主義について考える日朝問題学習会開く

日朝長野県民会議は10月5日、松本市・長野朝鮮初中級学校体育館で、Zoom参加も含めて約60人が参加し、日朝問題学習会を開きました。

学習会では、群馬県高崎市の県立公園に建立されている戦時中に動員された朝鮮人労働者の犠牲者を追悼する碑の設置許可の更新について群馬県が許可しなかった問題について、碑を守る会が裁判で更新不許可の取り消しを求めていた問題について、原告弁護団事務局長を務めた高崎市の下山順弁護士が講演しました。

2022年6月15日、最高裁は「記憶 反省 そして友好」の追悼碑を守る会が群馬県を被告として提訴した追悼碑の設置期間更新の不許可処分に対する取消等請求事件において、守る会の上告を却下するというきわめて不当な決定を行ないました。

追悼碑は2004年に建立され、戦時中に動員された朝鮮人労働者を追悼する集会が2012年まで碑の前で開かれてきました。群馬県は、追悼集会の参加者が3回「強制連行」に言及したことを問題視。碑の設置を許可した際の「政治的行事を行わない」との条件に違反するとして、2014年7月、設置期間の更新を不許可とする行政処分を出しました。原告は碑の存続を求めて同年11月に提訴しました。

2018年2月の前橋地裁判決は「政治的行事をしたから公園の効用を喪失したとはいえない」と述べ、県の不許可処分を「裁量権を逸脱し違法」とする原告勝訴判決をしましたが、東京高裁は2021年8月、一審の前橋地裁による原告勝訴判決を破棄し、被告・県の不許可処分を適法とする逆転判決を言い渡しました。地裁裁判長は、追悼集会での「強制連行」への言及について、「政治的発言にあたり、歴史認識に関する主義主張を訴えるための政治的行事」と判断。県の条件に違反し「公園施設」として存立する前提を失ったとして、県の不許可処分は適法と結論づけました。

日本政府は、教科書の「強制連行」の記述を不適切として「徴用」に言い換える閣議決定を行っていますが、そもそも「徴用」とは、権力が個人の意志にかかわらず強制的に連行して労働にあたらせることであって、「徴用」という文言を使用することで「強制連行」の事実が消滅するわけではありません。「強制連行」の使用が政治的であるとする群馬県の主張こそが政治的なのであり、そのことを追認する東京高裁・最高裁の姿勢もまた、歴史事実を歪める政治的判断と言わざるを得ません。

学習会で下山順弁護士は、追悼碑の更新許可をしなかった背景には、右翼団体である「そよ風」なるグループが群馬県に対し猛烈な抗議と排外主義的な宣伝を行ったことがあると報告。追悼碑の前で開かれた式典での来賓のあいさつで朝鮮人「強制連行」について触れたことが「政治的行事」だとする判決の問題点について指摘しました。下山弁護士は、「『強制連行』の用語は、広辞苑や多くの中学、高校の歴史教科書において一般的に使用されている」と述べ、決して「政治的発言」ではないと強調しました。

過去の戦争の加害・侵略の歴史を美化しようとする「歴史修正主義」を日本会議などの保守的・右翼的な団体が広げようと草の根的な活動を展開しています。歴史認識に関して、アジアの人々と積極的に対話し、日本国内でも議論を重ねていくことが大切です。

コロナ禍での若年・非正規・外国人労働者問題を学ぶ

労働運動研究会でPOSSE事務局長の渡辺寛人氏が講演

県労組会議は9月17日、上田市丸子解放センターで「21世紀の労働運動研究会」第3回講座を開き、コロナ禍における若年・非正規・外国人労働者の問題をテーマに学習しました。

講座の講師は、20~30歳代の若い人でつくるNPO法人・POSSE(ポッセ)事務局長で「ブラックバイトユニオン」を運営している渡辺寛人さん。POSSEが取り組んでいるブラック企業の告発活動の紹介とその実態、コロナ禍が広がる中で見えてきた日本のいびつな労働構造などについて、具体的な活動報告も交えて講演していただきました。低賃金、権利侵害が横行する技能実習生などの外国人労働者問題についても問題提起を受けました。

講演で渡辺氏は「コロナ禍での労働相談は女性、非正規労働者からの相談が多い。 女性からの相談が61%を占めている。また、 非正規雇用者からの相談が多く、全体の約68%に当たる」と報告。雇用の調整弁と位置付けられている矛盾がコロナ禍で噴出した実態を指摘しました。コロナ禍で女性への影響を増幅させた背景として、1) 平時のジェンダー視点が欠如した社会・経済構造、2)女性を労働力とするサービス経済化の進展、3)非正規雇用者の社会的保護からの排除などがあると強調しました。また渡辺氏は、女性は「男性稼ぎ主モデル」のもとで、家庭内で無償の家事労働を担わされ、労働市場においては家計補助的な労働力として活用されてきたこと、女性差別は、正規・非正規の雇用形態差別に形式を変えて継続していること、男性稼ぎの主モデルが崩壊し、産業構造が転換している現在、女性労働の位置づけが大きく変化しているが「周辺化」され続けている実態など、構造的な問題点を指摘しました。

渡辺氏は講演の最後に「労働運動のパラダイムチェンジ=根本的転換」が求められていると強調。「サービス経済化が進むなかで、女性の活動とされてきたものが産業の中心に移動しつつある。にもかかわらず、労働運動は男性中心的なものとしてイメージされている。女性やマイノリティが中心となれるような組織化をすすめよう」とまとめました。

 

渡辺寛人氏の講演資料

 

東京高裁の裁判官が原告の証人申請を却下

信州安保法制違憲訴訟の控訴審で-裁判官の訴訟指揮に異議あり

公平・公正な裁判を求め原告・弁護団は裁判官の忌避を申し立て

集団的自衛権などを認めた新安保法制が、憲法が規定する平和的生存権を侵害すると県内の原告362人が長野地方裁判所に提訴した国家賠償請求事件は、昨年6月25日、長野地裁が原告の請求を棄却する不当な判決を下しました。その後、原告は東京高裁に控訴し、第1回の口頭弁論が5月26日に開かれ、2回目が10月4日に開かれました。裁判には、長野県内から約20人の原告、代理人の弁護士が参加しました。

2回の口頭弁論では、弁護団から控訴理由の説明や原告からの意見陳述が行われました。1回目の弁論では、原告から原告団長の又坂常人さん(信州大学名誉教授)と竹内忍さん(予備校講師)が意見陳述、2回目の弁論では、久保亨さん(信州大学名誉教授)、荒井宏行さん(労働組合関係者)が陳述しました。原告はみんな「新安保法制の制定によって、平和的生存権が侵害され、精神的な苦痛を被った」などと陳述しました。

原告側は、石川健治氏(東京大学教授)、小林武氏(沖縄大学客員教授)、成澤孝人氏(信州大学教授)の3人の証人尋問を行うように申請していました。その理由は、①石川健治氏は、新安保法制法が控訴人らの主張する権利利益を侵害すること、及び新安保法制法が一見して明白に違憲無効であること等を立証するため、②小林武氏は、平和的生存権が具体的権利・利益として法的保護を与えるべき権利・利益であること等を立証するため、③成澤孝人氏は、違憲国家賠償訴訟における判断の方法等に鑑み、原審判決がこれまでの裁判例の流れに照らして妥当でないことなどを立証するため申請したもので、いずれも裁判所の判断のために必要不可欠な証人でした。

しかし2回目の口頭弁論で裁判官3人は、提出された意見書などの書面を証拠とすることで足りるから証人として採用する必要はないとして、証人尋問請求を却下しました。裁判長は「提出された書証で(立証の)不足があるならば書面で提出すればよい」と述べ、他の裁判官両名もこれに対し何らコメントをしませんでした。

原告側は、証人尋問を一方的に却下した裁判官の下では、公正・公平な裁判はできないと判断し、その場で口頭で「忌避」を申し立てました。忌避とは裁判官が担当する事件について不公平な裁判をするおそれがあるとき,原告は、裁判官がその事件に関与しないように申し立てすることができる権利です。

後日、原告側は正式に文書で「忌避申立理由書」を東京高裁に提出しました。その「理由書」では「控訴人(原告)らの証人申請について、意見書が提出されているから必要性なしとして門前払いをしているが、これは、本件の各証人がいずれも本件訴訟の根幹とも言うべき重要な争点について裁判官の面前で裁判官からの質問にも応答しつつ学識経験、研究に基づく証言をなすことを目的としているにもかかわらず、争点に対する原告の立証活動を妨げようとしているのではないかとの疑いを持たざるを得ない。結果、裁判の公平性に多大な疑念を生じさせると言わざるを得ない」と指摘しています。そして「裁判所の証拠調べ却下決定は、本訴訟において極めて重要な証人尋問を行うことなく審理を進めようとするものであって、直接主義・口頭主義の理念に反し、裁量権を大きく逸脱し違法である」と訴えています。

東京高裁の裁判官は、国側の意向に寄り添うような訴訟進行をやめ、ただちに原告側が申請した3人の証人尋問の申請を認めるべきです。

第2回口頭弁論の終了後、東京永田町の参議院議員会館で報告集会を開いた(2022年10月4日)