「ヘイトスピーチと在日コリアン社会」
日朝問題学習会(日朝長野県民会議/日朝松本市民会議共催)が、7月24日、松本市・長野朝鮮初中級学校体育館において開催されました。コロナ禍のためZoomを利用して東京から師岡康子弁護士に「ヘイトスピーチと在日コリアン社会」というテーマで講演いただきました。会場・Zoom参加者をあわせて80人以上の方が参加されました。
師岡康子弁護士は、ヘイトスピーチ問題に長年にわたって取り組まれ、川崎市のヘイトスピーチ規制条例制定にも尽力され、朝鮮学校、朝鮮幼稚園無償化問題でも活動を進めています。
今回の学習会ではヘイトスピーチ問題とその背景を丁寧に解説いただき、また国際的な差別をなくす取り組みを紹介されながら、日本国内における「ヘイトスピーチ解消法」成立後の現状、地方での条例制定の動きなど、「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」を中心に詳しくお話しいただきました。
【以下、講演概要】
きっかけは北朝鮮バッシング
ヘイトスピーチ問題に取り組むようになった経緯に、2002年9月の日朝首脳会談以降の北朝鮮バッシングがあった。
ヘイトスピーチは、暴言・迷惑行為ではなく、「差別的言動」であり「本質は差別」。また現在の日本で中心的な問題となっているヘイトスピーチは、人種主義的ヘイトスピーチ・ヘイトクライムであり、旧植民地出身者(韓国・朝鮮・中国)が主要なターゲットにされている。このことは、戦後も植民地主義を公的、社会的になくすことができず構造的差別が続いていることに原因がある。
日本社会にある構造的差別
ヘイトスピーチは特殊な集団による問題ではなく、日本社会がもつ人種差別構造の一角であり、マイノリティにとって全生活にわたって差別されている中の一部。
ヘイトスピーチは、マイノリティへの差別・暴力を浸透させ、マイノリティ及び平等に関する言論を委縮させ、民主主義を破壊し、排外主義と直結し、ジェノサイド・戦争へと導く社会全体に対する害悪。
世界的にはユダヤ人虐殺があり、現在では米国でのアジア系市民へのヘイトクライムが起きている。日本でも、1923年の関東大震災における朝鮮人・中国人虐殺が起き、現在でも2011年の東日本大震災の際に中国人窃盗団デマにもとづく自警団が徘徊するなどの問題が発生している。
人種主義的ヘイトスピーチの問題は、日本国内だけの問題ではなく、世界共通の人種差別と排外主義との闘いの問題。
国連加盟国の9割以上が批准する人種差別撤廃条約に、日本も1995年に加盟しており、国際法上、人種差別を「禁止し、終了する義務」がある(第2条)。しかし、日本は致命的に取り組みが遅れている。
※移民統合政策指数MIPEXの定住外国人に対する反差別政策での工業諸国内で2010年、2014年と最下位。人種差別撤廃政策も基本法も担当省庁もない現状。
「ヘイトスピーチ解消法」の意義と課題
しかし、2015年にNGO提案をベースに野党が法案を提出したことで、2016年5月24日に「ヘイトスピーチ解消法」が成立した。差別の被害者であり、参政権がない在日コリアンの声が、また、差別に反対する多くの人々の声が国会も社会も動かし、日本社会への絶望に風穴をあけた意義は大きい。
解消法成立後のヘイトスピーチの現状
ヘイトデモの回数はかなり減少しているが、ヘイト街宣は変わらない(2019年はデモ・街宣あわせて全国で300件、うち東京が100件という状況)。また公人、公的機関によるヘイトスピーチは止まらず、ネットでの差別書き込みもほぼ変わらず、匿名者の特定に大きな壁がある。テレビ・新聞・出版物における嫌韓・嫌中は日常化している。この5年間の現状から、解消法は不十分であることがわかってきた。やはり包括的な人種差別撤廃基本法を求めていく必要がある。
しかし地方公共団体に反差別条例制定の動きがあり、川崎市・京都府・東京都などでは公共施設の利用制限などが行われるようになった。川崎市では2019年12月に「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」が成立し、2020年7月に完全施行された。川崎市の条例は日本で初めて差別を犯罪とした画期的な内容になっている。
朝鮮学校の問題については、最高裁で高億無償化についてひどい判決が続けて出てしまった。朝鮮学校の問題も差別禁止法の枠組みのなかで、どうやって差別をなくしていくのかが私たちの大きな課題だと思う。
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講師:師岡康子弁護士プロフィール
もろおか・やすこ
外国人人権法連絡会事務局長。東京弁護士会外国人の権利に関する委員会委員。枝川朝鮮学校取り壊し裁判弁護団。東京朝鮮学校生「無償化」裁判弁護団。大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員研究員。国際人権法学会理事。人権差別撤廃NGOネットワーク共同世話人。主著「ヘイトスピーチとは何か」(岩波新書・2013年)