ロシア軍のウクライナ軍事侵攻は、ウクライナの市民社会へ大きなダメージを与えています。その中でロシア軍は、ジュネーブ条約で禁じられている原子力発電所への攻撃を始めました。欧州でも有数の原発立地国ウクライナには、事故を起こし運転を停止したチェルノブイリ原発を除いて、4カ所15基の原発があります。初めての原発立地地域での戦闘は、日本にとっても他人事ではありません。原水爆禁止日本国民会議(日本原水禁)は、ロシアの暴挙に抗議し、「脱原発社会」の実現を訴える声明を発表しました。

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日本原水禁声明:原発事故を誘発するロシアの軍事占拠を許さない

ウクライナの原子力企業エネルゴアトムは、3月8日、ウクライナ北部のチョルノービリ(チェルノブイリ)原発で電力供給が停止したため、貯蔵中の使用済み核燃料を冷却する電源が失われたと発表しました。また、原子力機関(IAEA)が設置した監視システムからのデータ送信が、停止したことも明らかになりました。翌日9日、国際原子力機関(IAEA)は、ウクライナ南東部のザポリージャ(ザポロジエ)原発でも設置された監視システムからのデータ送信が停止したことを明らかにしました。

チョルノービリ原発について、IAEAやウクライナ外相は、運転停止から相当の時間経過があり「安全性への致命的な影響はない」としていますが、3月4日に戦闘があったザポリージャ原子力発電所では、1基の原発が稼働中で、変圧器や外部高圧電線の損傷などが報告されています。詳細は不明ですが事故につながることが懸念されます。チョルノービリ、ザポリージャ両原発は、現在ロシア軍に占拠されており、通常の管理体制が保証されていません。原発従事者もロシア軍の拘束下におかれての業務遂行が強要され、ロシアは原発の管理権はロシア側の手にあると主張しています。

チョルノービリ原発では、使用済み核燃料貯蔵施設付近で、ザポリージャ原発では、原発に隣接する訓練施設で銃撃戦が起きました。また、核物質を扱うハリコフの国立物理技術研究所へもミサイル攻撃が行われています。幸いにも今のところ過酷事故にはつながってはいませんが、状況次第ではチョルノービリ原発や福島原発事故のような、放射性物質を外部環境に放出する事故も予想されます。ジュネーブ条約が禁じている原子力施設への攻撃は、断じて許されるものではありません。

軍事占領下で、万が一原発事故が起これば、事態への対応は混乱を極めることが予想されます。事故の拡大と放射能被害は、ウクライナにとどまらず、ヨーロッパや中東、ロシアからアジア諸国へ拡がる事が懸念されます。人類の生命と地球環境に大きな影響を与えるもので、ロシア政府は、原子力施設への攻撃と占拠を直ちに止め、異常事態が続く原子力施設を解放しなければなりません。

ウクライナには、他にもリウネ、フメルニツキー、南ウクライナの3カ所、9基の原発(ザポリージャを含んで計15基)が存在し、ロシア軍は南ウクライナ原発占拠に動いていると伝えられます。軍事戦略上の理由で原発を戦火に巻き込むことは、核兵器の使用と同様に非人道的行為であり、人類に対する犯罪といえるものです。原水禁は、軍事占拠を止めて一刻も早く原発を通常の状態に戻すこと、そして、ロシア軍はウクライナから撤退することを強く求めます。

原発立地地域での初めての戦争は、私たちに様々な教訓を運んでいます。原発の抱える様々なリスクを改めて認識し、脱原発を早期に実現することが求められています。原水禁は、多くの市民と共に、さようなら原発の運動を拡大し、脱原発社会へのとりくみを強化していきます。

2022年3月13日

原水爆禁止日本国民会議 共同議長 川野浩一/金子哲夫/藤本泰成